手首や肩の痛みでリハビリに通っていても、「本当にこの治療で良くなっているのか」「診断は正確なのか」と不安になることはないでしょうか。

 

 

近年、理学療法士が超音波(エコー)を使って筋肉や腱、骨の状態をその場で確認しながら治療を進める取り組みが広がっています。今回は、運動器エコー(MSK-US)が理学療法の診断や治療にどのような効果をもたらすのかを、海外の系統的レビューや臨床研究をもとにわかりやすく解説します。

 

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運動器エコーが理学療法にもたらす仕組み

運動器エコーとは、超音波を使って筋肉、腱、靭帯、骨の表面などを画面上にリアルタイムで映し出す検査方法です。レントゲンのような放射線を使わず、体を動かしながら腱や関節の動きを観察できる点が大きな特徴です。

 

米国の研究チームによる系統的レビューでは、運動器エコーはMRIと比べても遜色ない精度で腱や靭帯、骨折の評価ができることが報告されています。従来、理学療法士が行う触診や可動域チェックだけでは分かりにくかった組織の状態を、画像として直接確認できるようになったことが、この検査が広まっている理由の一つです。

 

また、超音波は体の状態を動かしながら観察できるため、じっと止まった状態でしか撮影できないMRIやレントゲンよりも、実際の動作に近い評価ができるという利点も指摘されています。

 

 

 

論文が示す診断精度と治療効果

2025年に発表された系統的レビュー(McKivigan et al., 2025)では、2001年から2024年までに報告された9件の研究を分析し、運動器エコーの有効性を検証しています。その結果、骨折診断における感度は87.3%、特異度は96.4%と高い精度が示されました。ただし、この精度は骨折の部位によって差があり、足の舟状骨骨折など一部の骨折では精度が下がることも報告されています。

 

同レビューで紹介された研究の一つでは、手首の骨折(橈骨遠位端骨折)の整復治療において、エコーガイド下で処置を行った患者群は、再整復が必要になった割合が9.2%にとどまったのに対し、行わなかった群では24.6%に達したと報告されています。骨のずれの角度を示す「掌側傾斜」の値も、エコーガイド群のほうが良好な結果でした。

 

また、米国で理学療法士としてエコー資格(RMSK)を持つ16名を対象とした調査(Markowski et al., 2022)では、110週間で1,110件の検査が行われ、**画像所見が診断に有意な情報をもたらした割合は100%**であったと報告されています。よく検査された部位は膝、肩、手首の順で、当院が専門とする手・手首の領域でも活用度が高いことがうかがえます。

 

 

 

臨床的な意味 ― どんな場面で役立つのか

運動器エコーは、すべての症状に同じように効果があるわけではない点にも注意が必要です。例えば、大腿四頭筋の部分断裂の症例報告では、エコーで損傷部位を確認しながら軟部組織モビライゼーションや遠心性トレーニングを行ったところ、6週間で機能と痛みの改善が確認されました。脳卒中後の肩の痛み(片麻痺性肩痛)の症例でも、エコー下での治療により腱の腫れや関節液の減少とともに症状の改善がみられています。

 

一方で、五十肩(凍結肩)を対象としたランダム化比較試験では、通常の運動療法・徒手療法にエコー治療を追加しても、痛みや可動域の改善に上乗せの効果は見られなかったと報告されています。つまり、運動器エコーの効果は症状や部位によって異なり、診断や治療方針の判断に役立つ場面を見極めることが重要だといえます。腱の断裂や骨折のように「今、組織に何が起きているか」を正確に把握する必要がある場面ほど、エコーの価値が高まると考えられます。

 

 

 

診断や治療が遅れるとどうなるか

腱の断裂や骨折を、症状や触診だけで正確に見分けることは容易ではありません。実際に、ある症例報告では、肘の痛みを訴えて理学療法士を受診した患者に対しエコー検査を行ったところ、高度な三頭筋腱の断裂が見つかり、速やかに専門医への紹介とMRI検査、手術につながったケースが紹介されています。もしこの段階でエコーによる確認がなければ、診断や専門医への紹介が遅れ、腱の修復に適した時期(受傷から約3週間以内)を逃してしまう可能性もありました。

 

手首の骨折についても、整復が不十分な状態のまま治療を続けると、骨の変形が残ったり、再度の処置が必要になったりするリスクが指摘されています。「なんとなく良くなっている気がする」という感覚だけに頼らず、画像で組織の状態を確認しながら治療を進めることが、回復の近道になるといえるでしょう。

 

 

 

当院での運動器エコーを活用した診療

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科・運動器エコーを専門とする院長のもと、手・指・手首・肘の痛みやしびれに対して、エコーによる精密な診断を行っています。ばね指やテニス肘、手根管症候群、TFCC損傷など、触診だけでは判断が難しい症状についても、エコーで腱や神経、関節の状態を直接確認しながら、保存療法から低侵襲の日帰り手術まで一人ひとりに合った治療を選択しています。

 

院内にはリハビリテーションルームも備え、理学療法士と連携しながら、術後や保存療法中の回復をサポートする体制を整えています。手根管症候群や手外科領域の詳しい治療内容は、以下のページをご覧ください。

 

手外科・手根管症候群の診療について(https://hasegawaseikei.com/medical/hand/)

 

 

 

まとめ

運動器エコーは、理学療法士が行う触診や可動域評価だけでは見えにくかった腱・靭帯・骨の状態を、リアルタイムの画像として確認できる検査方法です。骨折診断における高い感度・特異度や、手首の骨折整復における良好な治療成績など、複数の研究がその有効性を示しています。

 

一方で、すべての症状に一律の効果があるわけではなく、部位や病態に応じて活用場面を見極めることが大切です。痛みやしびれが続く場合は、画像による正確な評価を受けたうえで、ご自身に合った治療方針を選ぶことをおすすめします。

 

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参考文献

McKivigan JM, Tulimero GM, Joines K. Effectiveness of Diagnostic Musculoskeletal Ultrasound in Orthopedic Physical Therapy: A Systematic Review. South Asian Res J App Med Sci. 2025;7(6):285-293. doi:10.36346/sarjams.2025.v07i06.002
https://www.researchgate.net/publication/397571026_Effectiveness_of_Diagnostic_Musculoskeletal_Ultrasound_in_Orthopedic_Physical_Therapy_A_Systematic_Review

Markowski AM, Watkins MK, Maitland ME, Manske RC, Podoll KR, Hayward LM. Exploring the integration of diagnostic musculoskeletal ultrasound imaging into clinical practice by physical therapists. Physiother Theory Pract. 2024;40(3):544-555. doi:10.1080/09593985.2022.2135979
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36259351/

Chorba R, Hu C, Feldtmann J. Triceps Tendon Avulsion in a Soldier: A Case Report. Int J Sports Phys Ther. 2024;19(5):618-624.
https://www.researchgate.net/publication/380366453_Triceps_Tendon_Avulsion_in_a_Soldier_A_Case_Report

 

 

 

【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄(https://medicalnote.jp/doctors/251104-001-DB)

奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など。