「親指を動かすと手首が痛い」「赤ちゃんを抱き上げると親指側に痛みが走る」。こうした症状で考えられる病気の一つが、ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)です。

手首の腱の通り道には、人によって構造の違いがあります。この違いを把握することは、痛みのある場所を理解し、治療方針を検討するうえで役立つ可能性があります。

今回は、医学誌『Radiology』に掲載された研究をもとに、手首のエコー検査で何が分かるのか、ドケルバン病の診療とどのようにつながるのかを解説します。

 

 

 

ドケルバン病とは?親指側の手首が痛くなる腱鞘炎

手首の親指側には、親指を広げる働きを助ける「長母指外転筋腱」と、親指を伸ばす働きを助ける「短母指伸筋腱」が通っています。この2種類の腱が通るトンネルを「第1伸筋区画」と呼びます。

 

ドケルバン病では、この部分で腱が滑らかに動きにくくなり、親指側の手首に痛みや腫れが生じます。物を握る、手首をひねる、荷物を持ち上げるといった動作で、痛みが目立つことがあります。

 

妊娠・出産後にもみられますが、手首の痛みだけでドケルバン病と断定することはできません。 痛む位置や経過、診察所見を確認することが基本です。

 

手や手首の症状については、当院の手のこわばり・痛み、手外科専門医による治療もご覧ください。

 

 

 

腱の通り道には「仕切り」があることがある

同じ第1伸筋区画でも、内部の構造は全員同じではありません。トンネルの中に「隔壁」という仕切りがあり、腱の通り道が2つに分かれている場合があります。また、腱が複数の束に分かれていることもあります。

イメージとしては、1つのトンネルだと思っていた場所が、内側の壁によって別々の通路になっている状態です。

こうした構造の個人差があることと、病気であることは同じではありません。 画像で仕切りが見つかった場合も、それだけで痛みの原因や治療の必要性を決めるのではなく、症状との関係を考える必要があります。

今回の論文は、このような細かな構造をエコーで見分けられるかを検証した研究です。

 

 

 

論文で検証されたエコー検査の正確さ

Roussetらは、防腐処理をしていない献体の前腕40肢を対象に、2名の観察者がエコーで構造を評価し、その結果を解剖所見と照合しました。対象の死亡時年齢は65~100歳でした。

評価したのは、隔壁の有無、骨の表面にある隆起と二重の溝、そして腱が複数の束に分かれているかどうかです。正診率は、隔壁が95%、骨の隆起と二重の溝が100%、長母指外転筋腱の複数束が80%、短母指伸筋腱の複数束が97%でした。

また、解剖で隔壁を認めた標本には、骨の隆起も認められました。著者らは、骨表面の形状も、内部に仕切りがあることを推測する手がかりになると報告しています。

 

 

「正診率95%」はドケルバン病の診断率ではありません

研究結果を読む際に大切なのは、何を調べた数字なのかを区別することです。

この研究の95%という値は、献体で「隔壁があるかどうか」を判定した正確さです。ドケルバン病を95%の確率で診断できる、あるいは95%の患者さんが治るという意味ではありません。

対象は40肢であり、年齢も高齢者に限られています。実際に痛みのある患者さんを対象として、治療後の改善や再発を調べた研究ではありません。また、今回100%だった項目も、あらゆる診療場面で見落としがないことを保証する数字ではありません。

この論文から読み取れるのは、エコーが手首の細かな構造を把握するために役立つということです。治療効果については、別の臨床研究による検証が必要です。

 

 

 

構造を確認することが治療の検討につながる理由

ドケルバン病の治療では、痛みを誘発する動作の調整、装具、薬物療法、ステロイド注射などを検討します。症状が強い場合や保存的治療で改善しない場合には、手術を検討することもあります。

通り道が仕切られていれば、注射を検討する際にも、その構造を把握する意味があります。今回の研究から考えられる臨床上の意義は、「どのような通り道になっているか」を確認し、処置の計画に生かせる可能性があることです。著者らも、2つの区画への個別の注射を検討するための情報になり得るとしています。

ただし、仕切りがあれば必ず注射が効かない、必ず手術になるということではありません。画像だけで治療を決めず、症状の程度や生活上の困りごと、これまでの治療経過と合わせて判断することが大切です。

 

 

 

エコーは診察を補う検査。全員に必須ではありません

ドケルバン病は、問診や診察で診断できる場合もあり、すべての患者さんにエコーやレントゲンが必要なわけではありません。診断がはっきりしない場合や、ほかの原因を確認したい場合などに、医師が検査の必要性を判断します。

エコーは放射線を使わず、腱などの軟部組織を画像として確認できる検査です。当院では、問診・診察に加えて必要に応じてエコーを行い、画像を見ながら状態や治療方針を説明しています。

大切なのは、「エコーを受けること」そのものを目的にするのではなく、検査で得られた情報を、症状の理解と治療の選択につなげることです。

検査の特徴や診察の流れについては、エコーを活用した整形外科診療についてをご確認ください。

 

 

 

大阪市平野区で手首・親指の痛みにお困りの方へ

痛みが続き、仕事や家事、育児に支障が出ているときは、整形外科でご相談ください。受診時には、「いつから」「どの動作で」「どこが痛むか」に加え、これまで受けた治療とその後の変化を伝えると、状態を整理しやすくなります。

診察では、痛みの原因だけでなく、「抱っこを続けたい」「仕事で手を使う」「趣味を再開したい」といった希望を共有することも大切です。生活の中で困っている動作を具体的にお聞かせください。

大阪市平野区のはせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科専門医が手・指・手首の痛みやしびれを診療しています。必要に応じて運動器エコーを活用し、一人ひとりの状態に合わせた治療をご提案します。

手首の痛みを「使いすぎだから仕方がない」と我慢せず、原因を確かめることから始めましょう。

 

 

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参考文献

  1. Rousset P, Vuillemin-Bodaghi V, Laredo JD, Parlier-Cuau C. Anatomic variations in the first extensor compartment of the wrist: accuracy of US. Radiology. 2010;257(2):427–433. doi: 10.1148/radiol.10092265
    本記事の研究解説は、公開されている抄録・図説明などに基づいています。

  2. American Academy of Orthopaedic Surgeons. De Quervain’s Tenosynovitis. OrthoInfo.
    ドケルバン病の症状・診断・一般的な治療に関する参考資料。

 

【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄

奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など