「足の付け根が痛い」「横向きに寝ると太ももの外側がズキズキする」「階段の上り下りがつらい」。このような股関節まわりの痛みで整形外科を受診し、レントゲンで「骨には大きな異常はありません」と言われたものの、痛みが続いているという方は少なくありません。

股関節の痛みの原因は、骨や軟骨の変化だけではありません。関節の中にたまった水(関節液)や、お尻の筋肉の腱の傷みなど、レントゲンには写らない「やわらかい組織」の異常が痛みの原因になっていることがよくあります。
今回は、股関節の痛みの診断におけるエコー(超音波検査)の役割について、2025〜2026年に発表された医学論文をもとに、わかりやすく解説します。
▶ はせがわ整形外科運動器エコークリニックはこちら
https://hasegawaseikei.com
レントゲンとエコーは「見ているもの」が違います
股関節の検査として最も一般的なのはレントゲン(X線検査)です。レントゲンは骨の形や、骨と骨のすき間(関節裂隙)の狭さを見るのに優れており、変形性股関節症の診断には欠かせない検査です。
一方で、レントゲンは筋肉・腱・関節液・滑液包(クッションの役割をする袋)といった、やわらかい組織をほとんど映し出すことができません。
エコーは、音波を使って体の内部をリアルタイムに観察する検査です。放射線を使わないため被ばくの心配がなく、痛みもありません。エコーは、関節の中の水のたまり具合や、腱の傷み、炎症による血流の増加などを、その場で画面に映して確認できるという特長があります。また、脚を動かしながら観察できるため、「どの動きで、どこが引っかかっているのか」を動的に評価できることも大きな強みです。
研究結果1:初期の変形性股関節症で、エコーはレントゲンと同程度の診断力を示しました
フィンランドのオウル大学の研究グループは、変形性股関節症が疑われ、レントゲンで軽度の変化(KLグレード2)が見られた58人の患者さんを対象に、両側の股関節(合計116関節)をエコーとMRIで調べ、レントゲンの結果と比較しました。MRIを基準として比べたところ、エコーとレントゲンの診断性能はどちらも中程度で、ほぼ同等でした。また、エコーの所見を合計したスコアは、痛みの強さとも関連していました。
この研究で特に重要なのは、エコーとレントゲンが「股関節症の別々の側面」をとらえていたという点です。研究者らは、関節液のたまりはレントゲンではほぼ評価できないのに対しエコーでは簡単に確認できること、また、エコーは小さな骨棘(骨のトゲ)を見つけやすくなる可能性がある一方で、骨の内部の変化はレントゲンでなければ評価できないことを指摘しています。 Wiley Online Library
つまり、エコーはレントゲンの「代わり」ではなく、レントゲンでは見えない部分を補う「パートナー」の検査だということです。研究チームも、股関節症が疑われる患者さんの評価において、エコーが補完的な役割を果たすと結論づけています。
研究結果2:「太ももの外側の痛み」の多くは、滑液包炎ではなく腱の傷みでした
股関節の外側、太ももの付け根の出っ張った骨(大転子)のあたりが痛む状態(大転子症候群)があります。中年以降の女性に多く、横向きで寝ると痛む、長く座った後に立ち上がると痛む、といった症状が特徴です。
かつてはこの痛みの主な原因は「滑液包炎」と考えられてきました。しかし、2025年に発表されたイタリアの総説では、現在の知見では、お尻の横の筋肉である中殿筋・小殿筋の腱の傷み(殿筋腱障害)こそが主な原因とされており、滑液包炎と誤って診断されることが多いとまとめられています。 PubMed Central
さらに、中国の研究グループが2026年に発表した研究では、大転子周囲の疼痛と診断された55関節を標準化された手順でエコー検査しました。その結果、殿筋腱の異常は約9割の関節で見つかった一方、滑液包炎は約3割にとどまりました。また、腱の傷み・腱の中の石灰化・腱の血流増加といったエコー所見があるほど痛みが強い傾向がみられ、重症度が上がるにつれて痛みのスコアも段階的に高くなっていました。 PubMed
加えて、このエコー分類は、異なる検査者の間でも判定がよく一致しており、重症度を評価する信頼性の高い方法であると結論づけられています。エコーで「腱がどの程度傷んでいるのか」を客観的に評価することで、一人ひとりの状態に合わせた治療を選びやすくなります。 PubMed
エコーは「治療」の精度も高めます
エコーの役割は診断だけではありません。股関節は体の深いところにあり、周囲には太い血管や神経が通っています。そのため、目で見ずに注射をすると、狙った場所に薬が届かないことがあります。
チェコの研究者らによる2025年の総説では、股関節のエコーは診断の精度を高めるとともに、非常に正確な注射治療を可能にする価値の高い方法であり、関節内注射、腸腰筋や大転子部の滑液包への治療、太ももの外側の神経のブロック、内転筋やハムストリングの腱障害への治療などに活用できると紹介されています。 PubMed
エコーで針先と薬の広がりをリアルタイムに確認しながら注射を行うことで、痛みの原因となっている場所に的確に薬を届けることができます。これは治療効果を高めるだけでなく、血管や神経を避けて安全に処置を行うことにもつながります。
痛みを我慢して放置するとどうなるのでしょうか
股関節の痛みを「年のせい」とあきらめて放置していると、痛みをかばって歩き方が変わり、腰や膝など他の関節にまで負担がかかることがあります。また、殿筋の腱の傷みが進行すると、腱が部分的あるいは完全に断裂してしまうこともあります。先ほどの研究でも、腱の傷みが進んだ段階ほど痛みが強い傾向が示されていました。
変形性股関節症も、初期のうちに適切な運動療法や体重管理、生活動作の工夫を始めることで、進行をゆるやかにできる可能性があります。「レントゲンで異常なし」と言われても痛みが続く場合は、エコーでやわらかい組織を詳しく調べることが、早期の正しい診断への近道です。
当院の股関節診療について
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、運動器エコーを診療の中心に据え、レントゲンだけでは分からない関節液のたまりや腱・滑液包の状態、炎症の程度を、診察室でその場で評価しています。検査画面を患者さんと一緒に見ながら、「どこが、なぜ痛いのか」を分かりやすくご説明することを大切にしています。
治療においても、エコーで確認しながら行う注射(エコーガイド下注射)やハイドロリリースなど、痛みの原因に的確にアプローチする治療を、症状に応じてご提案しています。エコーを活用した当院の整形外科診療については、こちらのページ(https://hasegawaseikei.com/medical/orthopaedics/)で詳しくご紹介しています。
また、変形性股関節症に対する注射治療については、以前のブログ記事「変形性股関節症にヒアルロン酸注射は効果がある?超音波ガイド下治療の最新研究を解説」(https://hasegawaseikei.com/2026/06/07/1317/)でも解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ
股関節の痛みの原因は、骨や軟骨の変化だけでなく、関節液のたまりや殿筋の腱の傷みなど、レントゲンには写らないやわらかい組織の異常であることも少なくありません。最新の研究では、エコーが初期の変形性股関節症の評価でレントゲンを補う役割を持つこと、そして太ももの外側の痛みの多くが腱の傷みによるものであり、エコーでその重症度を信頼性高く評価できることが示されています。
股関節の痛みは、原因を正確に見極めることが治療の第一歩です。レントゲンで異常がないと言われても痛みが続く方は、エコーによる精密な検査をぜひ一度ご検討ください。
▶ はせがわ整形外科運動器エコークリニックはこちら
https://hasegawaseikei.com
▶ Web予約はこちら
https://patient.digikar-smart.jp/visits/reserve?institutionId=374d2e85-d733-48d6-af64-646a2ffe5820
参考文献
- Kemppainen A, Kaartinen S, Nevalainen MT. Diagnostic Performance of Ultrasound to Evaluate Mild Hip Osteoarthritis: Comparison With Radiography and MRI. Journal of Clinical Ultrasound. 2026;54(2):382-390. doi:10.1002/jcu.70086
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40974584/ - Wu Y, Fu J, He F, Guo X, Chen K, Wang D. Standardized ultrasound assessment with a classification system in greater trochanteric pain syndrome: a pilot study. Quantitative Imaging in Medicine and Surgery. 2026;16(1):84. doi:10.21037/qims-2025-1491
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41522010/ - Donati D, Tedeschi R, Garnum PE, Vita F, Tarallo L, Faldini C, Catani F. A narrative review on greater trochanteric pain syndrome: diagnostic imaging and non-surgical treatments. Musculoskeletal Surgery. 2026;110(2):163-172. doi:10.1007/s12306-025-00924-7
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40973929/ - Novotný T, Mezian K, Naňka O. Ultrasound-Guided Interventions for the Hip. Acta Chirurgiae Orthopaedicae et Traumatologiae Cechoslovaca. 2025;92(Suppl.1):27-33. doi:10.55095/achot2025/020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40878602/
【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄(https://medicalnote.jp/doctors/251104-001-DB)
奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など。
- 投稿タグ
- 医学解説









