「変形性股関節症が進行して、人工股関節の手術を勧められた」
「人工関節にすれば痛みは良くなると思うけれど、手術後に人工関節が緩まないか心配」
「骨粗しょう症があると言われているが、人工関節手術を受けても大丈夫なのだろうか」
このような不安を抱えている患者さんは少なくありません。

人工股関節全置換術(THA)は、進行した変形性股関節症に対して非常に有効な治療法です。一方で、人工関節を長く安定して使用していくためには、関節そのものだけでなく、人工関節を支える「骨の状態」を手術前から考えることが重要です。
2025年にMedical Sciences誌に掲載された研究では、人工股関節手術を受ける前から骨粗しょう症治療を行っていた患者さんでは、術後の「ストレスシールディング」が有意に少なかったことが報告されました。
今回はこの論文をもとに、人工股関節手術と骨粗しょう症の関係、そして当院が人工関節センターと連携して行っている「手術前からの骨粗しょう症治療」について解説します。
人工股関節手術では「関節」だけでなく「骨」が重要です
人工股関節全置換術では、傷んでしまった股関節を人工の関節に置き換えます。
特に現在広く使用されているセメントレス人工股関節では、大腿骨の中に人工関節のステムを設置し、周囲の骨と安定させることが重要になります。
そのため、人工関節そのものの性能だけでなく、人工関節を支える患者さん自身の骨の強さ、つまり骨質や骨密度も重要な要素になります。
今回の論文でも、骨粗しょう症による骨密度低下は、人工股関節周囲の骨量減少や人工関節の緩み、人工関節周囲骨折のリスクに関係すると説明されています。
特に人工関節手術を検討する年代では、変形性関節症と骨粗しょう症が同時に存在しているケースも珍しくありません。
ところが、人工関節の手術について詳しく検討していても、骨粗しょう症については十分な検査や治療を受けていない患者さんもいらっしゃいます。
「ストレスシールディング」とは何でしょうか
今回の研究で注目されたのが「ストレスシールディング」です。
人工股関節を設置すると、大腿骨と人工関節のステムでは硬さが異なるため、それまで骨にかかっていた力の伝わり方が変化します。
その結果、人工関節周囲の骨に十分な負荷が加わらなくなり、徐々に骨が痩せてしまうことがあります。これをストレスシールディングと呼びます。論文では、大腿骨近位部の骨萎縮の程度をGrade 0~4に分類して評価しています。
人工関節の手術が成功しても、その周囲の骨が弱くなってしまえば、将来的な人工関節の緩みや骨折につながる可能性があります。
つまり、人工関節手術を考えるときには「手術をどう行うか」だけでなく、「人工関節を支える骨をどう守るか」という視点も大切なのです。
手術前から骨粗しょう症を治療していた患者さんでは骨萎縮が少なかった
今回の研究では、2019年4月から2022年3月までにセメントレス人工股関節全置換術を受けた107人が対象となりました。
そのうち、手術前から1年以上継続して骨粗しょう症治療薬を使用していた患者さんが治療群、骨粗しょう症への治療介入がなかった患者さんが非治療群として比較されています。
手術前から骨粗しょう症治療を受けていたのは31人、治療を受けていなかったのは76人でした。
そして術後1年で人工股関節周囲の骨を調べたところ、骨粗しょう症治療を受けていた患者さんでは、ストレスシールディングの程度が有意に軽いという結果になりました(p=0.001)。
論文5ページに掲載された代表的なレントゲン写真でも、骨粗しょう症治療を受けていた症例では術後1年でも明らかな骨萎縮が認められなかった一方、骨粗しょう症の診断・治療を受けていなかった症例では、大腿骨近位部にGrade 3のストレスシールディングが確認されています。
これは、人工股関節手術を考えている患者さんにとって非常に興味深い結果です。
「手術してから骨粗しょう症を考える」のではなく「手術前から考える」
今回の論文で特に重要なのは、骨粗しょう症治療を「手術後」ではなく、手術前から行っていた患者さんを評価している点です。
論文ではビスホスホネート製剤、デノスマブ、活性型ビタミンD製剤などの骨粗しょう症治療についても考察されており、これらの治療が骨吸収を抑え、人工関節周囲の骨量維持に関係する可能性が示されています。
もちろん、すべての患者さんに同じ骨粗しょう症治療薬が適しているわけではありません。
年齢、骨密度、過去の骨折歴、腎機能、血液検査、現在使用している薬などを確認したうえで、一人ひとりに適した治療を考える必要があります。
当院では、骨粗しょう症について詳しく知りたい患者さんに向けて、骨粗しょう症の検査・治療について詳しく解説しています。
人工関節手術を予定している方こそ、一度「自分の骨は人工関節を長く支えられる状態なのか」という視点で骨の健康を確認しておくことをおすすめします。
術後1年の痛みや機能には差がなかった点にも注意が必要です
この研究を正しく理解するためには、「骨粗しょう症治療をすれば人工関節手術後の症状がすぐに良くなる」と解釈しないことも大切です。
研究では術後1年のJOAスコア、Harris Hip Score、JHEQといった臨床評価について、治療群と非治療群の間に有意差は認められませんでした。
つまり今回示されたのは、主として人工股関節周囲の骨萎縮を抑えられる可能性です。
研究者らも、ストレスシールディングによる骨萎縮や骨折を予防することが、将来的な長期成績の改善につながる可能性を指摘しています。一方、この研究は後ろ向き研究で症例数が比較的少なく、観察期間も1年間であるため、さらに大規模で長期間の研究が必要とされています。
そのため、骨粗しょう症治療は「人工関節手術を成功させる魔法の治療」ではありません。
しかし、人工関節を長期間安定して使用するために、手術前から骨の状態を評価し、必要な治療を始めるという考え方には大きな意味があります。
当院では人工関節センターと連携し、術前から骨粗しょう症治療を行います
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、変形性股関節症や変形性膝関節症の患者さんについて、保存治療だけでなく、人工関節が必要な段階まで進行した患者さんの治療についても対応しています。
人工股関節置換術や人工膝関節置換術が必要と判断される患者さんについては、人工関節センターと連携しながら治療を進める体制を整えています。
そして当院が大切にしているのが、手術の日程が決まってから骨を考えるのではなく、必要な患者さんには人工関節手術の前から骨粗しょう症の評価と治療を開始することです。
骨密度低下や骨粗しょう症が認められる患者さんでは、患者さんの状態に応じて骨粗しょう症治療を検討し、人工関節を支える骨の健康まで含めて手術に備えていきます。
骨粗しょう症の診療については、はせがわ整形外科運動器エコークリニックの骨粗しょう症治療ページもご覧ください。
なお、今回ご紹介した研究は人工股関節全置換術を対象とした研究であり、人工膝関節置換術について同じ効果を直接証明した研究ではありません。しかし、人工関節を支える骨の健康を術前から評価することは、人工関節治療を考えるうえで重要な視点のひとつです。
人工関節手術後のリハビリまで継続してサポートします
人工関節治療は、手術を受けたら終了ではありません。
手術後には、筋力、関節可動域、歩行能力などを回復させ、日常生活へ戻るためのリハビリテーションが重要になります。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、人工関節センターで手術を受けた患者さんについて、術前の骨粗しょう症治療から、人工関節手術、そして術後のリハビリテーションまでつなげて考えられる診療体制を整えています。
「手術を受ける病院」と「その後通院するクリニック」が完全に別々になるのではなく、地域のクリニックと人工関節センターが連携しながら治療を進めることで、患者さんが安心して人工関節治療に臨める環境を目指しています。
変形性股関節症・変形性膝関節症で人工関節を検討している方へ
歩くと股関節や膝が痛い、買い物に行くのがつらい、階段の昇り降りが難しくなった、夜間も痛むようになった。
こうした症状が強くなり、保存治療で十分な改善が得られない場合には、人工股関節置換術や人工膝関節置換術が選択肢になることがあります。
ただし、人工関節手術を受けるかどうかだけを考えるのではなく、「手術前の骨粗しょう症評価」「必要に応じた骨粗しょう症治療」「人工関節センターとの連携」「術後リハビリ」までを一つの流れとして考えることが大切です。
今回ご紹介した研究では、人工股関節手術前から骨粗しょう症治療を受けていた患者さんで、術後のストレスシールディングが有意に少ないことが示されました。
「人工関節の手術が必要かもしれない」と言われた段階は、骨粗しょう症についても確認する良いタイミングです。
変形性股関節症や変形性膝関節症で人工関節手術を検討している方、手術を勧められたものの今後の流れに不安がある方、骨粗しょう症も指摘されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
人工関節を入れることだけをゴールにするのではなく、その人工関節を支える骨を守り、手術後に再び歩きやすい生活へ戻るところまで見据えて治療を進めていくことが重要です。
骨粗しょう症の検査・治療について詳しくはこちら|はせがわ整形外科運動器エコークリニック
【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄
奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など











