参考文献

Ferrara PE, Codazza S, Maccauro G, Zirio G, Ferriero G, Ronconi G. Physical therapies for the conservative treatment of the trigger finger: a narrative review. Orthopedic Reviews. 2020;12(Suppl1):8680. doi:10.4081/or.2020.8680

 

 

「ばね指にはストレッチがいいと聞いたので毎日続けています。」

診察室でも、このようなお話をされる患者さんは少なくありません。

 

 

インターネットやSNS、YouTubeには「ばね指が治るストレッチ」「自宅でできるセルフケア」など、多くの情報があふれています。そのため、「手術は避けたいから、まずはストレッチを頑張ろう」と考える方も多いでしょう。

 

もちろん、ストレッチやリハビリが全く意味のない治療というわけではありません。しかし、「ストレッチだけでばね指が治る」と証明した科学的根拠は、現時点では十分とはいえません。

 

今回は、2020年に医学雑誌『Orthopedic Reviews』に掲載されたレビュー論文をもとに、ばね指に対するストレッチやリハビリなどの保存療法について、一般の方にもわかりやすく解説します。

また、保存療法で改善しない場合に、なぜ手術が必要になることがあるのかについても詳しくお伝えします。

 

ばね指でお悩みの方や、「このまま様子を見ていても大丈夫なのだろうか」と不安を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。

 

 

 

ばね指とはどんな病気?

ばね指は、指を曲げる腱がスムーズに動かなくなり、途中で引っ掛かってしまう病気です。

指を動かすための腱は、細いトンネルの中を滑るように動いています。しかし、このトンネルの入り口が狭くなったり、腱そのものが厚くなったりすると、腱が引っ掛かってしまいます。

 

その結果、

・朝起きると指がこわばる

・指を曲げると「カクッ」と音がする

・痛みがある

・指が途中で止まる

・反対の手で伸ばさないと戻らない

といった症状が現れます。

 

さらに症状が進行すると、指が曲がったまま伸びなくなることもあります。

ばね指は「筋肉が硬い病気」ではなく、「腱が通る場所で引っ掛かる病気」であることが大きな特徴です。

 

 

 

ばね指になりやすい人とは?

ばね指は誰にでも起こる可能性がありますが、特に多いのは40〜60歳代の女性です。また、親指や薬指に起こりやすいことも知られています。

 

さらに、

・糖尿病

・関節リウマチ

・手をよく使う仕事

・家事や育児で指を酷使する方

などでは発症しやすいことが報告されています。

 

もちろん、「手を使いすぎたから必ずばね指になる」というわけではありません。しかし、毎日の生活の中で繰り返し指を使うことが、発症のきっかけになることは少なくありません。

 

 

 

保存療法にはどのようなものがあるの?

ばね指と診断されると、多くの場合はまず保存療法が行われます。

 

代表的なものとして、

・安静にする

・痛み止めを飲む

・装具で指を固定する

・ストレッチ

・リハビリ

・超音波治療

・ステロイド注射

などがあります。

 

 

この中でも、多くの患者さんが自宅で取り組みやすいのがストレッチです。

「毎日続ければ治るのでは?」

「YouTubeで紹介されていたからやってみよう」

と思うのは自然なことですが、ここで大切なのは科学的な根拠があるのかどうかです。

 

 

 

最新のレビュー論文では何がわかったのか?

今回紹介する論文では、世界中の医学論文を調査し、ばね指に対する物理療法の効果をまとめています。

研究者たちはPubMedやCochrane Libraryなど複数の医学データベースを検索しましたが、条件を満たした研究はわずか4本しかありませんでした。

 

つまり、

ばね指のリハビリやストレッチについては、実は質の高い研究が非常に少ないというのが現状なのです。

「多くの人がやっている治療」と「十分な科学的根拠がある治療」は、必ずしも同じではありません。

 

このレビューでは、

・体外衝撃波治療

・超音波治療を含む理学療法

 

について検討されていましたが、ストレッチだけを単独で調べた研究はありませんでした。

 

 

 

ストレッチだけで治ると証明されたわけではない

ここが、この論文の最も重要なポイントです。

「ストレッチが効く」と聞くと、ストレッチだけでばね指が治るように感じるかもしれません。

 

しかし、この論文で紹介されていた理学療法は、

・温熱療法

・超音波治療

・ストレッチ

・マッサージ

などを組み合わせて行われていました。

 

つまり、

ストレッチだけの効果を調べた研究ではありません。

そのため、この論文から言えることは、

「ストレッチだけでばね指が治る」と証明されたわけではないということです。

 

 

もちろん、ストレッチによって指の動かしやすさが改善したり、こわばりが和らいだりする方はいます。

しかし、ばね指の原因は、指の中で腱が引っ掛かるという構造的な問題です。

そのため、筋肉を伸ばすだけで原因そのものがなくなるとは限りません。

 

 

体外衝撃波治療には期待できる結果も

今回のレビューで最も多く報告されていた保存療法が、体外衝撃波治療(ESWT)でした。

 

複数の研究では、

・痛みが軽くなった

・指の引っ掛かりが改善した

・手の使いやすさが向上した

という結果が報告されています。

 

また、1年間追跡した研究では、治療後も改善が続いていたという報告もありました。

ただし、論文ではどのくらいの強さで、何回行うのが最も効果的なのかはまだわかっていないとも述べられています。

つまり、体外衝撃波治療にも可能性はありますが、現時点では標準的な治療として確立されたわけではありません。

 

 

 

「様子を見る」を続けても良いの?

ばね指は初期であれば症状が軽く、日常生活にもそれほど支障がないことがあります。

そのため、「そのうち治るだろう」と様子を見る方も少なくありません。

しかし、論文でも紹介されているように、治療を受けずに経過すると、症状が徐々に進行し、指が曲がったまま戻らなくなることもあります。

 

特に、

・毎朝強い引っ掛かりがある

・痛みが数か月続いている

・反対の手で指を戻している

・仕事や家事に支障が出ている

このような場合には、一度手外科を専門とする医師へ相談することをおすすめします。

 

詳しい診療内容や治療方法については、はせがわ整形外科運動器エコークリニックのホームページでも紹介しています。

https://hasegawaseikei.com

 

 

 

超音波治療やリハビリにはどのような効果がある?

レビュー論文では、超音波治療を含むリハビリについても検討されています。

 

この研究では、

・温熱療法

・超音波治療

・ストレッチ

・マッサージ

などを組み合わせた治療が行われました。

 

その結果、痛みや引っ掛かりは改善したものの、3か月後の時点ではステロイド注射のほうが症状の改善は大きいという結果でした。

一方で興味深い結果もあります。

 

理学療法を受けた患者さんでは、症状が改善したあと6か月まで再発がみられなかったことが報告されています。

つまり、超音波治療やリハビリは一定の役割を果たす可能性がありますが、「すべてのばね指がこれだけで治る」ということではありません。

論文でも、「研究数が少なく、今後さらに検証が必要」と結論づけられています。

 

 

 

 

保存療法にも限界がある

ばね指は、指の中で腱が引っ掛かっている状態です。

 

そのため、初期であれば安静やストレッチ、リハビリで症状が落ち着くことがありますが、引っ掛かりそのものが強くなってしまうと、保存療法だけでは改善が難しくなることがあります。

 

 

実際、このレビュー論文でも、物理療法には一定の効果が期待できる一方で、

・研究数が少ない

・患者さんの人数が少ない

・治療方法が統一されていない

・最適な治療法はまだ確立されていない

という課題が挙げられています。

 

つまり現在の医学では、

「ストレッチを続ければ必ず治る」とも、「リハビリだけで完治する」とも言えないというのが科学的な結論です。

 

 

 

「もう少し様子を見よう」が症状を長引かせることも

診察をしていると、

「半年くらいストレッチを続けています」

「動画を見ながら毎日マッサージしています」

という患者さんは少なくありません。

もちろん、ご自身でできるケアに取り組むことは大切です。

 

しかし、

・朝の引っ掛かりがどんどん強くなっている

・痛みが続いている

・仕事中に指が動かなくなる

・反対の手で戻さなければ伸びない

このような状態であれば、保存療法だけを続けるのではなく、一度専門医の診察を受けることをおすすめします。

ばね指は放置すると、指が曲がったまま固まってしまうこともあります。

 

早い段階で適切な治療を選択することが、日常生活への影響を少なくすることにつながります。

 

 

 

手術はどのような人に必要になるの?

「手術」と聞くと、不安に感じる方も多いと思います。

しかし、すべてのばね指で手術が必要になるわけではありません。

 

 

一般的には、

・保存療法を続けても改善しない

・ロッキングが強い

・指が伸びなくなっている

・何度も再発する

・日常生活や仕事に支障がある

このような場合に手術が検討されます。

 

 

手術では、腱が引っ掛かっている部分を広げることで、腱がスムーズに動けるようにします。

つまり、原因そのものを取り除く治療です。

 

 

ストレッチやマッサージは症状を和らげることがありますが、狭くなった通り道を広げることはできません。

そのため、保存療法で改善しないばね指では、手術が根本的な治療になることがあります。

 

 

 

身体への負担を抑えたエコーガイド下手術という選択肢

最近では、ばね指の手術も以前より身体への負担が少なくなっています。

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科専門医が超音波(エコー)を使いながら、安全性に配慮した低侵襲な手術を行っています。

エコーを使うことで、神経や腱の位置をリアルタイムで確認しながら治療を進めることができるため、必要以上に組織を傷つけずに手術を行えるよう努めています。

また、一人ひとりの症状や生活スタイルに合わせて、「まだ保存療法で様子を見てもよいのか」「手術を検討した方がよいのか」を丁寧に相談しながら治療方針を決めています。

 

 

詳しい治療内容は、はせがわ整形外科運動器エコークリニックのホームページをご覧ください。

https://hasegawaseikei.com

 

 

 

まとめ

今回ご紹介したレビュー論文では、体外衝撃波治療や超音波治療などの物理療法には一定の効果が期待できることが示されました。しかし同時に、研究数が少なく、現時点では最適な保存療法はまだ確立されていないことも明らかになっています。

 

また、この論文ではストレッチ単独でばね指が治ることを示した研究はありませんでした。

 

そのため、「ストレッチを続ければそのうち治る」と期待して症状を我慢し続けるよりも、改善がみられない場合には専門医へ相談することが大切です。

 

ばね指は、適切なタイミングで適切な治療を受けることで改善が期待できる病気です。

 

痛みや引っ掛かりが続いている方、指が伸びにくくなってきた方は、一人で悩まず、手外科を専門とする医師へご相談ください。

 

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科専門医がエコーを活用した身体への負担が少ないばね指治療を提供しています。保存療法から手術まで、一人ひとりの症状に合わせた治療をご提案していますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。

https://hasegawaseikei.com

 

【執筆者】

はせがわ整形外科運動器エコークリニック 

院長 長谷川 英雄

奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など