参考文献

楽器演奏は芸術活動である一方、高度な身体運動を何時間も繰り返す「スポーツ」に近い側面があります。プロ・アマチュアを問わず、多くの音楽家は長時間の練習を続けることで、手や指、手首、肘、肩、首などに大きな負担を受けています。
2024年に発表されたレビュー論文では、音楽家に多い疾患や治療法について、形成外科・手外科領域の知見を幅広くまとめています。論文では、音楽家は一般の患者とは異なり、ごくわずかな痛みや感覚障害でも演奏能力が大きく低下し、職業生命に直結する可能性があることが強調されています。
そのため、音楽家の診療では「痛みを治す」だけではなく、「元の演奏レベルまで復帰できるか」を目標にした専門的な診療が必要になります。
音楽家に手の障害が多い理由
音楽家は毎日数時間から十数時間もの練習を繰り返します。
論文では、演奏には
正確な指の動き
繊細な感覚
持久力
柔軟性
上肢全体の協調運動
が求められると述べられています。
一般の生活では問題にならない程度の症状でも、演奏家にとっては音程やテンポ、音色に大きな影響を及ぼします。
そのため診療では、「どの楽器を演奏するのか」「どの指をどのように使うのか」まで理解したうえで治療方針を決めることが重要です。
音楽家に多い手の疾患
論文では、音楽家に多い手の疾患として以下が紹介されています。
・手根管症候群
・肘部管症候群
・変形性関節症
・関節リウマチ
・外傷
・オーバーユース症候群
・音楽家ジストニア
・Linburg-Comstock症候群
いずれも演奏能力に直結するため、早期診断と専門治療が重要になります。
最も多いのはオーバーユース症候群
音楽家の障害で最も頻度が高いのはオーバーユース症候群です。
論文では、生涯有病率が89%に達する可能性があると報告されています。
これは長時間の反復動作によって筋肉や腱、神経に負担が蓄積し、痛みや違和感が生じる状態です。
画像検査では異常が見つからないことも多く、診断が難しいことが特徴です。
そのため、
「検査では異常がない」と言われても症状が存在することは珍しくありません。
演奏フォームや練習量、身体の使い方まで含めた評価が必要になります。
手根管症候群や肘部管症候群にも注意
神経が圧迫される疾患も音楽家では少なくありません。
手根管症候群では親指から薬指にかけてのしびれや巧緻運動障害が出現します。
肘部管症候群では小指や薬指のしびれ、握力低下、細かな指の動きが難しくなります。
論文では、まず保存療法を十分に行い、それでも改善しない場合に手術を検討することが推奨されています。
音楽家では手術のタイミングも重要であり、長期間神経障害が続くと演奏能力の回復が難しくなる可能性があります。
音楽家ジストニアは演奏家特有の難しい疾患
音楽家ジストニア(Musician’s Focal Dystonia)は、演奏中だけ指が勝手に曲がる、伸びる、震えるなどの症状が現れる神経疾患です。
論文では、約200人に1人の音楽家が発症するとされ、**治療後も演奏を継続できるのは約38%**と報告されています。
現在でも決定的な治療法はなく、
リハビリテーション
ボツリヌス療法
心理的アプローチ
作業療法
脳深部刺激療法
などを組み合わせた多職種医療が重要になります。
楽器によって治療方法は変わる
論文で何度も強調されている点は、演奏する楽器によって治療方針を変える必要があることです。
例えば、
ピアニスト
ヴァイオリニスト
ギタリスト
トランペット奏者
では、同じ親指の障害でも必要な可動域や筋力は大きく異なります。
そのため、一般的な手外科診療だけでは十分ではなく、演奏動作まで理解した診療が求められます。
音楽家専門の診療が重要な理由
音楽家は「日常生活が送れること」ではなく、
「元どおり演奏できること」
が治療目標になります。
論文でも、術前から演奏方法を確認し、演奏に必要な感覚や筋力、巧緻性まで評価する重要性が述べられています。
そのためには、
手外科
リハビリテーション
運動器エコー
音楽家医療
を組み合わせた診療体制が理想的です。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックの音楽家外来
はせがわ整形外科運動器エコークリニック(https://hasegawaseikei.com)では、手外科専門医が音楽家の手の疾患を専門的に診療しています。
さらに、音楽家の手の障害や音楽家ジストニアに専門的に対応する理学療法士が在籍しており、演奏動作やフォームまで評価したリハビリテーションを提供しています。
一般的な整形外科では対応が難しい演奏時特有の痛みや違和感、指が思うように動かない症状についても、運動器エコーを活用しながら原因を詳しく評価し、一人ひとりの演奏スタイルに合わせた治療を行っています。
演奏中の手や指の痛み、しびれ、腱鞘炎、ばね指、手根管症候群、肘部管症候群、音楽家ジストニアなどでお困りの方は、早めに専門医へ相談することをおすすめします。
詳しくは はせがわ整形外科運動器エコークリニック公式ホームページ(https://hasegawaseikei.com)をご覧ください。
まとめ
今回紹介した論文は、音楽家に生じる代表的な疾患と治療法を包括的にまとめたレビューです。音楽家ではオーバーユース症候群や神経障害、関節疾患、外傷、音楽家ジストニアなど多様な疾患がみられますが、最も重要なのは「演奏に復帰すること」をゴールに治療を組み立てることです。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科専門医による専門診療に加え、音楽家の手の障害や音楽家ジストニアに精通した理学療法士がチームで診療を行っています。
音楽家特有の症状でお悩みの方は、我慢して演奏を続けるのではなく、専門的な評価と早期治療を受けることが、長く演奏を続けるための第一歩になります。
【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄
奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など





