腰痛がなかなか改善しない、何度も腰痛を繰り返す、長時間座っていると腰がつらくなる。このような症状でお悩みではありませんか?

腰痛というと、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、背骨の異常に注目が集まりがちです。しかし近年、腰を支える深い筋肉である「多裂筋(たれつきん)」の萎縮や機能低下が、腰痛と関連している可能性が注目されています。

では、この多裂筋の状態を、身体への負担が少ない超音波検査(運動器エコー)で正確に評価できるのでしょうか?

今回ご紹介するのは、2023年に国際科学誌『Scientific Reports』に掲載された、腰部多裂筋の筋断面積を運動器エコーとMRIで比較した研究です。

エコー検査の信頼性と限界、そして腰痛診療やリハビリテーションへの応用について、整形外科専門医の立場からわかりやすく解説します。

 

 

 

腰痛と深い関係がある「多裂筋」とは?

多裂筋は、背骨のすぐ近くに存在する深層筋で、頸椎から腰椎、仙骨にかけて分布しています。

特に腰部多裂筋は、腰椎の細かな動きを制御し、背骨の安定性を保つうえで重要な役割を担っています。

私たちが立つ、座る、歩く、物を持ち上げるといった日常動作を行う際にも、腰椎を安定させる働きがあります。

これまでの研究では、腰痛患者さんにおいて、多裂筋の萎縮や筋肉内への脂肪浸潤が認められることが報告されています。

特に、第3腰椎から第5腰椎(L3〜L5)の領域では、腰痛のある人とない人で筋肉の大きさに違いがみられることがあります。

ただし、多裂筋が小さいことだけで腰痛の原因を断定することはできません。 腰痛には椎間板、椎間関節、神経、筋肉など、さまざまな要因が関係します。

多裂筋の評価は、腰痛の状態を多角的に理解するための情報の一つと考えることが重要です。

 

 

 

多裂筋の萎縮は運動器エコーでわかる?

筋肉の大きさを調べる方法として、従来はMRIが重要な役割を担ってきました。

MRIでは筋肉の断面を詳しく観察でき、筋断面積や脂肪浸潤などを評価できます。

一方、MRIには検査費用や設備、検査時間などの制約があります。

そこで注目されているのが、運動器エコーです。

運動器エコーには、放射線被ばくがなく、外来診療で利用しやすく、繰り返し評価できるという特徴があります。

今回の研究で使用されたのは、パノラマ超音波画像(パノラマエコー)という技術です。

 

通常のエコー画像は、一度に表示できる範囲がプローブの幅によって制限されます。

パノラマエコーでは、プローブを身体の表面に沿って移動させることで、広い範囲を一枚の画像として表示できます。

そのため、通常の画面に収まりにくい筋肉や、左右の多裂筋をまとめて観察する際に役立ちます。

当院でも、筋肉や腱、関節などの状態を確認する運動器エコーを診療に活用しています。

 

 

 

研究内容|20人の若年アスリートでMRIとエコーを比較

今回の研究は、スイスのチューリッヒ大学関連施設の研究チームによって実施されました。

対象となったのは、競技アルペンスキーに取り組む男子選手20人で、平均年齢は約15歳でした。

研究では、第3・第4・第5腰椎の高さで、左右それぞれの多裂筋をMRIとパノラマエコーで撮影しました。

そして、各高さで測定した筋断面積の平均値を比較しています。

 

評価した主な項目は、次の3点です。

  1. 同じ評価者が画像を解析した場合、測定結果はどの程度一致するか

  2. 異なる評価者が画像を解析した場合、結果にどの程度の違いが生じるか

  3. パノラマエコーとMRIで測定した筋断面積は、どの程度一致するか

 

ここで重要なのは、今回検証されたのは主に撮影済みエコー画像の解析に関する再現性であり、毎回撮影し直した場合の再現性ではないという点です。

 

実際の診療では、画像を撮影する技術も測定結果に影響するため、この違いを理解しておく必要があります。

 

 

 

研究結果①|同じ評価者による測定は非常に高い信頼性

まず、同じ評価者が日を変えてエコー画像を解析した場合の信頼性を調べました。

信頼性の指標には、級内相関係数(ICC)が用いられています。

ICCは1に近いほど測定結果の一致度が高いことを示します。

結果は以下のとおりでした。

  • 左側の多裂筋:ICC 0.98

  • 右側の多裂筋:ICC 0.98

左右ともに0.98という非常に高い値を示しました。

 

これは、同じ評価者がパノラマエコー画像を解析すると、筋断面積を極めて安定して測定できる可能性があることを意味します。

また、測定誤差から算出された最小検出変化量は、左右ともに0.11cm²でした。

ただし、これは今回の撮影画像を再解析した条件で得られた数値であり、患者さんを繰り返し撮影する際の変化判定基準として、そのまま使用できるわけではありません。

 

それでも、筋肉の形態を数値化する手段として、パノラマエコーが有望であることを示す結果といえます。

 

 

 

研究結果②|評価者が変わると測定結果に差が生じる

一方、異なる評価者が同じ画像を解析した場合、信頼性は低下しました。

  • 左側の多裂筋:ICC 0.75

  • 右側の多裂筋:ICC 0.66

同じ評価者による測定と比較すると、ばらつきが大きくなっています。

 

その理由として研究者らは、多裂筋と隣接する脊柱起立筋との境界が不明瞭になりやすいことを挙げています。

エコー画像では、筋肉の輪郭をどこまでと判断するかによって、計測される面積が変わる場合があります。

 

運動器エコーは優れた検査技術ですが、測定精度を高めるためには、撮影方法や画像解析方法の標準化、評価者の経験が重要です。

特に経過観察で筋肉の大きさを比較する場合、できるだけ同じ条件で測定することが望ましいと考えられます。

 

 

 

研究結果③|MRIとエコーの平均的な差は3%未満

最も注目したいのが、MRIとパノラマエコーを比較した結果です。

両者の平均的な測定値の差は、次のようになりました。

  • 左側:−2.68%

  • 右側:−1.11%

この研究では、MRIの測定値からエコーの測定値を引いた差として評価されています。

 

つまり、エコーはMRIよりも多裂筋の断面積を平均的にやや大きく測定する傾向がありました。

しかし、その平均差は左右とも3%未満でした。

この結果は、パノラマエコーが多裂筋の断面積評価に利用できる可能性を支持しています。

 

ただし、注意すべき点があります。

平均差が小さいことと、個々の患者さんで測定値が正確に一致することは同じではありません。

今回の研究では、個人ごとの測定値の差を示す一致限界が、左側で約−26.7〜21.3%、右側で約−26.5〜24.2%に達していました。

つまり、平均的にはMRIに近い値が得られていても、個別の測定では20%以上の差が生じる場合があるということです。

この結果から、エコーの測定値をMRIの測定値と完全に同じものとして扱うことは適切ではないと考えられます。

 

 

 

なぜMRIとエコーで測定値が異なるのか?

研究者らは、測定値の違いが生じる理由として、検査時の姿勢や測定位置の影響を挙げています。

MRIは仰向けで撮影されたのに対し、エコーはうつ伏せで撮影されました。

姿勢が異なると、筋肉に加わる圧力や形状が変化する可能性があります。

また、MRIでは腰椎の位置を確認しやすい一方、エコーではプローブの角度や測定断面の設定が結果に影響します。

こうした要因が重なり、同じ筋肉を評価していても数値に違いが生じると考えられます。

さらに、今回の研究対象は若い男性アスリート20人に限られています。

慢性腰痛の患者さんや高齢者、筋肉の脂肪変性が進んだ方でも同様の精度が得られるかについては、さらなる研究が必要です。

 

 

 

腰痛治療やリハビリテーションにどう役立つ?

今回の研究は、エコーによる多裂筋の形態評価に一定の信頼性があることを示しました。

今後、測定方法の標準化が進めば、腰痛患者さんの筋肉の状態を客観的に把握する方法として、さらに活用される可能性があります。

例えば、腰痛の診察では、痛みの出る動作、姿勢、筋力、柔軟性、神経症状などを総合的に評価します。

そこに筋肉の画像情報を組み合わせることで、身体の状態をより詳しく理解する手がかりになるかもしれません。

ただし、今回の研究はエコー検査の測定精度を調べたものであり、エコーを使うことで腰痛が改善することや、リハビリの治療成績が向上することを直接証明した研究ではありません。

多裂筋の断面積だけで治療効果を判断するのではなく、痛みや日常生活動作の改善なども合わせて評価することが大切です。

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、理学療法士による運動器リハビリテーションを行い、患者さんの症状や身体機能、生活環境に応じた治療を提供しています。

 

 

まとめ|腰痛の評価における運動器エコーの可能性

今回の研究から、パノラマエコーによる腰部多裂筋の筋断面積測定は、同じ評価者による画像解析では非常に高い信頼性を示すことがわかりました。

一方で、評価者が異なる場合や、MRIと比較した場合には、一定の測定誤差が存在することも明らかになりました。

運動器エコーはMRIに完全に置き換わる検査ではありませんが、筋肉の状態を評価するための有用な選択肢となる可能性があります。

そして、腰痛の診療で最も重要なのは、画像検査の結果だけに注目するのではなく、患者さん一人ひとりの症状や身体機能を総合的に判断することです。

大阪市平野区の

では、運動器エコーを活用した整形外科診療と、専門的なリハビリテーションに取り組んでいます。

慢性的な腰痛、繰り返す腰の痛み、スポーツによる腰の不調などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

 

▶ はせがわ整形外科運動器エコークリニックはこちら

https://hasegawaseikei.com

▶ Web予約はこちら

https://patient.digikar-smart.jp/visits/reserve?institutionId=374d2e85-d733-48d6-af64-646a2ffe5820

 

 

参考文献

Fitze DP, Franchi MV, Peterhans L, Frey WO, Spörri J.

Reliability of panoramic ultrasound imaging and agreement with magnetic resonance imaging for the assessment of lumbar multifidus anatomical cross-sectional area.

Scientific Reports. 2023;13:19647.

DOI: 10.1038/s41598-023-46987-z

論文全文:https://doi.org/10.1038/s41598-023-46987-z

 

 

【執筆者】

はせがわ整形外科運動器エコークリニック

院長 長谷川 英雄

奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、*Journal of Orthopaedic Science*および*Journal of Medicine and Urban Health*査読委員など。