
※本記事は上記論文をもとに、骨粗しょう症について一般の方にもわかりやすく解説したものです。治療方法は骨密度、骨折歴、年齢、合併症などによって異なります。実際の治療については医師にご相談ください。
「骨密度が低いと言われたけれど、まだ痛くないから大丈夫」
「骨粗しょう症の薬はたくさんあるけれど、何が違うのかわからない」
このように感じている方は少なくありません。
しかし、骨粗しょう症で本当に注意したいのは、症状がほとんどないまま骨が弱くなり、転倒などをきっかけに骨折してしまうことです。
特に閉経後の女性では、女性ホルモンの低下によって骨吸収が骨形成を上回りやすくなり、骨粗しょう症のリスクが高くなります。今回ご紹介する2026年の研究では、閉経後骨粗しょう症に対する「抗スクレロスチン抗体」という治療について、これまでに行われたランダム化比較試験をまとめて解析しています。
研究の中心となった薬剤の一つが、日本でも骨粗しょう症治療に使用されているロモソズマブ(イベニティ®)です。
骨粗しょう症は「年齢だから仕方ない」と考えるのではなく、正確に骨密度を測定し、一人ひとりの骨折リスクに合わせて治療することが重要です。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、正確な骨密度測定ができる機器を導入し、検査結果や患者さんの状態を踏まえた骨粗しょう症治療を行っています。
今回の研究はどのようなもの?
今回の論文は、抗スクレロスチン抗体による骨粗しょう症治療の有効性と安全性を検討した「システマティックレビュー・メタ解析」です。
複数の研究結果をまとめて解析することで、一つの臨床試験だけを見るよりも治療効果の全体像を評価しやすくなります。
今回の解析には、10件のランダム化比較試験、合計12,384人の閉経後骨粗しょう症患者が含まれました。抗スクレロスチン抗体と、プラセボ、アレンドロネート、テリパラチド、デノスマブなどが比較されています。
主に調べられたのは、治療開始から6か月、12か月後における「骨密度(BMD)」の変化です。
評価された場所は、
・腰椎
・大腿骨近位部全体
・大腿骨頸部
です。
さらに、副作用や心血管イベントについても解析されました。
抗スクレロスチン抗体はなぜ骨密度を増やすのか?
骨は、一度作られたらそのまま一生残る組織ではありません。
古くなった骨を壊す「骨吸収」と、新しい骨を作る「骨形成」を繰り返しながら維持されています。
ところが閉経後にはこのバランスが崩れ、骨吸収が骨形成を上回りやすくなります。
ここで重要になるのが「スクレロスチン」というタンパク質です。
スクレロスチンは骨細胞から分泌され、骨形成に関係するWntシグナルを抑制します。抗スクレロスチン抗体は、このスクレロスチンの作用を抑えることで、骨形成を強力に促すと同時に、骨吸収もある程度抑えるという特徴があります。
つまり、単純に「骨が減るのを抑える」だけではなく、骨を作る方向にも働きかけることが大きな特徴です。
腰椎の骨密度で特に大きな効果
今回の研究で注目したいのが、腰椎の骨密度です。
抗スクレロスチン抗体は、プラセボだけでなく、アレンドロネートやテリパラチドと比較しても、6か月および12か月で腰椎骨密度を有意に増加させました。
さらに強力な骨吸収抑制薬であるデノスマブとの比較でも、腰椎骨密度は、
6か月:平均差3.68%
12か月:平均差5.20%
と、抗スクレロスチン抗体で有意に大きく増加しました。
論文では、腰椎には代謝活性の高い海綿骨が多く、骨形成を促進する治療に比較的速く反応することが、この結果に関係している可能性が指摘されています。
骨折リスクが非常に高い方など、比較的早く骨量を増やす必要があるケースにおいて、抗スクレロスチン抗体は重要な治療選択肢となり得ます。
大腿骨ではデノスマブとの差がみられなかった
一方で、「すべての場所で抗スクレロスチン抗体が他の薬より優れている」という結果ではありません。
大腿骨近位部全体と大腿骨頸部では、プラセボ、アレンドロネート、テリパラチドと比較すると、抗スクレロスチン抗体による有意な骨密度増加が認められました。
しかし、デノスマブとの比較では、大腿骨近位部全体および大腿骨頸部の骨密度に有意差は認められませんでした。
この結果からも、骨粗しょう症治療は単純に「一番強い薬を選べばいい」というものではないことがわかります。
腰椎と大腿骨のどちらの骨折リスクが高いのか、過去に骨折したことがあるのか、現在の骨密度はどの程度なのかなどを総合的に判断する必要があります。
ロモソズマブ(イベニティ®)の安全性は?
効果と同じくらい重要なのが安全性です。
今回のメタ解析では、抗スクレロスチン抗体の有害事象について、プラセボやデノスマブとの間に統計学的な有意差は認められませんでした。
アレンドロネートとの比較では抗スクレロスチン抗体の有害事象がわずかに少なく、一方、テリパラチドとの比較では多いという結果でした。
また、心血管イベントについて解析できた4研究をまとめると、他の骨粗しょう症治療と比較した相対リスクは1.23、95%信頼区間0.92~1.64、P=0.17で、今回の解析では統計学的に有意な心血管イベント増加は確認されませんでした。
ただし、これは「心血管リスクがない」という意味ではありません。
論文自体も、ロモソズマブでは心血管安全性について慎重な評価が必要であることを論じています。したがって、治療薬は骨密度の数値だけで決めるのではなく、既往歴や心血管リスクなども含めて医師が総合的に判断することが大切です。
骨粗しょう症治療で重要なのは、まず正確に骨密度を知ること
どれほど優れた治療薬が登場しても、そもそも骨粗しょう症に気づかなければ治療を始めることができません。
骨粗しょう症は「沈黙の病気」ともいわれるように、骨密度が低下していても自覚症状がないケースがあります。
そのため、
「閉経後で骨密度が気になる」
「以前より身長が低くなった」
「軽い転倒で骨折したことがある」
「家族に大腿骨近位部骨折をした人がいる」
「骨粗しょう症の検査を長期間受けていない」
といった方は、一度骨の状態を確認することが大切です。
骨粗しょう症診療のスタート地点は、現在の骨密度をできるだけ正確に把握することです。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、正確な骨密度測定が可能な機器を導入しています。骨密度を適切に評価したうえで、年齢、骨折歴、骨折リスクなどを考慮し、それぞれの患者さんに適した骨粗しょう症治療を提供しています。
「骨密度が低い」と言われたら放置しないことが大切
骨粗しょう症治療の目的は、単に検査の数字を改善することではありません。
最も重要な目的は、将来の骨折を予防し、できるだけ長く自分の足で生活できる状態を守ることです。
特に背骨の圧迫骨折や大腿骨近位部骨折は、生活の質を大きく低下させる可能性があります。
一度骨折してから治療を考えるのではなく、骨折する前から自分の骨の状態を知り、必要に応じて治療を開始することが重要です。
今回の研究は、抗スクレロスチン抗体、とりわけロモソズマブを含む治療が、閉経後骨粗しょう症において骨密度を比較的速やかに増加させる有力な選択肢であることを示しています。
ただし、研究の追跡期間は最長12か月と比較的短く、ロモソズマブとブロソズマブをまとめて解析していること、研究間の患者背景などに違いがあり異質性が高いことなどの限界があります。論文著者も、長期的な骨折予防効果や心血管安全性について、今後さらに大規模で長期の研究が必要としています。
骨粗しょう症が心配な方は、骨密度検査から始めましょう
「最近、身長が縮んできた気がする」
「健康診断で骨密度低下を指摘された」
「母親が骨粗しょう症だったので自分も心配」
「骨粗しょう症の薬を飲んでいるが、現在の骨密度を確認したい」
このような方は、症状が出るまで待つのではなく、骨密度を一度確認してみることをおすすめします。
骨粗しょう症は、適切な検査によってリスクを把握し、その人に合った治療を継続することが重要な病気です。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、正確な骨密度測定機を導入し、検査結果をもとに適確な骨粗しょう症治療を提供しています。
「自分の骨密度を知りたい」「骨粗しょう症の治療について相談したい」「現在の治療を続けてよいのか確認したい」という方も、まずはお気軽にご相談ください。
骨折してからではなく、骨折する前に骨の状態を知ること。それが、将来の健康と生活を守るための大切な一歩です。
骨密度検査・骨粗しょう症治療について詳しくは、はせがわ整形外科運動器エコークリニック公式ホームページをご覧ください。
【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄
奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など










