「肩が痛くて腕を上げにくい」「夜、肩の痛みで目が覚める」「肩への注射は、どこに打つかで効果が変わるの?」

肩の痛みに対する注射治療について、このような疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。肩には関節や腱、滑液包などが集まっており、治療では痛みの原因と注射の目的を見極めることが大切です。

そこで注目されるのが、超音波画像を確認しながら行う「エコーガイド下注射」です。今回は、2015年に学術誌に掲載されたAlyらの論文をもとに、肩への注射の精度と効果を解説します。

この研究のポイントは、エコーの有用性は注射する部位によって異なり、注射の正確さと症状の改善は分けて考える必要があるということです。

 

 

 

エコーガイド下注射とは?従来の注射との違い

エコーガイド下注射は、超音波で体内の組織や針の位置を確認しながら、目的の場所に薬剤を届ける方法です。放射線を使わず、その場で画像を確認できる特徴があります。

一方、従来の「ランドマーク法」は、骨の出っ張りなどの目印や触診をもとに注射の位置を決めます。解剖学的な知識と経験に基づく方法ですが、体格や組織の状態には個人差があります。

エコーは、こうした目印に加えて、体内の状態を画像で確認する手がかりになります。ただし、装置を使えば自動的に正確な注射になるわけではなく、画像を読み取り、針を操作する技術も必要です。

当院の診療については、エコーを活用した整形外科診療のページをご覧ください。診察から注射治療まで、エコーの活用について紹介しています。

 

 

 

論文では肩のどの部分への注射を調べた?

この論文は、複数の研究を集めて評価する「システマティックレビュー・メタ解析」です。2013年7月までの文献を検索し、患者514人を対象とした9研究と、献体の肩300肩を対象とした4研究が検討されました。

対象となったのは、肩峰下腔、上腕二頭筋長頭腱の腱鞘、肩鎖関節、肩甲上腕関節への注射です。

肩峰下腔は肩の上部にある骨と腱板の間の空間で、滑液包などがあります。腱鞘は腱を包む組織、肩鎖関節は鎖骨と肩甲骨がつながる部分、肩甲上腕関節はいわゆる肩関節の中心となる関節です。

献体で確認した「狙った場所に届いた割合」と、患者さんの「痛みや動かしやすさの改善」は、異なる評価項目です。 すべての研究が同じ項目を調べたわけではありません。

 

 

 

注射の精度はどのくらい違った?

目的の部位に薬剤が届いた割合は、肩鎖関節ではエコーガイド下が93.6%、ランドマーク法が68.2%でした。これは3研究をまとめた結果です。

上腕二頭筋長頭腱の腱鞘では86.7%対26.7%、肩甲上腕関節では92.5%対72.5%で、いずれもエコーガイド下のほうが高い精度を示しました。ただし、この2部位の数値はそれぞれ1研究に基づきます。

一方、肩峰下腔では65%対70%で、統計学的に明確な差はありませんでした。

つまり、「肩への注射は、どの場所でもエコーを使えば精度が上がる」とまでは、この論文からはいえません。

また、これらは研究条件下での注射精度であり、痛みが治る確率や、個々の医療機関の治療成績を示す数字ではありません。

 

 

 

肩の痛みや動かしやすさは改善した?

肩峰下腔への注射では、3研究をまとめた解析で、注射6週間後の痛みと肩の機能はエコーガイド下のほうが改善していました。

痛みの改善幅の群間差は、10点尺度で平均1.47点でした。これは「エコーを使うと全員の痛みが1.47点減る」という意味ではなく、2つの方法の平均的な改善幅に差があったということです。

上腕二頭筋長頭腱の腱鞘への注射でも、エコーガイド下で痛みや機能の改善が大きい結果でした。ただし、効果の評価は1研究に限られています。

一方、五十肩に関連する癒着性関節包炎を対象とした肩甲上腕関節への注射では、エコーによる上乗せ効果が長く続くとは示されませんでした。

エコーガイド下注射には症状改善を助ける可能性がありますが、効果の大きさや持続期間は、注射部位や病気の状態によって異なります。

 

 

 

「正確な注射」と「必ず効く注射」は同じではない

この研究では、肩峰下腔への注射で、精度に明確な差がなかった一方、痛みや機能には差がみられました。精度と効果を評価した研究の組み合わせが異なることもあり、両者を単純に結び付けることはできません。

治療結果には、注射の位置だけでなく、病気の種類、症状が続いている期間、使用薬剤、運動療法なども関係します。

また、この論文は主にステロイドを用いた肩周囲の注射を検討したものです。同じエコーガイド下の治療でも、ハイドロリリースや再生医療など、別の治療の効果を直接証明する研究ではありません。

 

 

 

副作用や研究の限界も知っておきましょう

肩峰下腔への注射で報告された有害事象は、エコーガイド下で少ない傾向でしたが、統計学的に明確な差はありませんでした。この結果だけで「エコーを使えば副作用を防げる」とは断定できません。

さらに、部位によって研究数が少なく、注射の正確さの判定方法や機能評価にも違いがありました。短期の結果を中心とした検討であり、長期的な効果や費用対効果についても十分にはわかっていません。

本論文はエコーガイド下注射の特徴を理解する資料ですが、2013年までの研究を対象としています。現在の治療を選ぶ際には、その後の知見と患者さんごとの診察結果を合わせて判断する必要があります。

 

 

 

肩の痛みは、原因の評価から治療を考える

肩が痛むと「五十肩だろう」と考えがちですが、肩周囲には複数の痛みの原因となる組織があります。まず、どの動きで痛むのか、どの組織に問題があるのかを診察で整理することが大切です。

大切なのは、注射を受けること自体ではなく、痛みの原因に合った治療を選ぶことです。 注射が必要かどうかを含め、診察や検査の結果から検討します。

また、痛みだけでなく、腕の動かしにくさや日常生活で困っている動作にも目を向ける必要があります。当院のリハビリテーションのページでは、一人ひとりの状態に合わせた運動療法や生活動作への支援を紹介しています。

肩の痛みが続き、着替えや睡眠、仕事に支障がある方は、ご相談ください。受診の案内ははせがわ整形外科運動器エコークリニックのホームページからご確認いただけます。

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参考文献

Aly AR, Rajasekaran S, Ashworth N. Ultrasound-guided shoulder girdle injections are more accurate and more effective than landmark-guided injections: a systematic review and meta-analysis. British Journal of Sports Medicine. 2015;49(16):1042–1049. オンライン公開:2014年11月17日。
DOI:10.1136/bjsports-2014-093573
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【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄

奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など