参考文献:Kitridis D, Perdikakis E, Potoupnis M, et al. “De Quervain Tendinopathy: Anatomical Prognostic Indicators of Corticosteroid Injection Success.” Journal of Personalized Medicine. 2024;14(9):928. doi:10.3390/jpm14090928

 

「親指を動かすと手首が痛い」
「赤ちゃんを抱っこすると親指側の手首にズキッと痛みが走る」
「腱鞘炎と言われて注射を受けたけれど、また痛くなってきた」

このような症状がある場合、ドケルバン病(de Quervain病、ドケルバン腱鞘炎)の可能性があります。

 

 

 

ドケルバン病は、親指を動かす腱が通る手首の「第1伸筋腱区画」で炎症や狭窄が起こる病気です。特に親指を頻繁に使う方、子育て中の方、スマートフォンやパソコンを長時間使用する方などでみられます。

ドケルバン病に対しては、装具、薬物療法、ステロイド注射、手術などさまざまな治療方法があります。

しかし、ここで非常に重要なのが、「同じドケルバン病でも、腱鞘の中の構造は患者さんによって違う」という点です。

2024年にJournal of Personalized Medicineに掲載された研究では、ドケルバン病に対するステロイド注射後の再発と、エコーで確認できる「隔壁(septum)」などの解剖学的構造との関係が検討されました。

 

この研究は、注射を繰り返すべき患者さんと、手術も含めた治療を検討したほうがよい患者さんを考えるうえで、エコーによる評価が重要である可能性を示しています。

 

 

ドケルバン病とは?

手首の親指側には、親指を動かす「長母指外転筋(APL)」と「短母指伸筋(EPB)」という腱が通っています。

これらの腱は「第1伸筋腱区画」と呼ばれるトンネルのような場所を通っています。

ドケルバン病では、この部分の腱鞘が厚くなったり狭くなったりすることで、腱がスムーズに動きにくくなり、親指側の手首に痛みが出ます。論文では、保存治療として装具や抗炎症薬、ステロイド注射が用いられ、症状が残る場合には手術が選択されることが説明されています。

代表的な症状は、

・親指側の手首が痛い
・親指を開いたり動かしたりすると痛い
・物を持つと痛い
・タオルを絞ると痛い
・子どもを抱き上げると痛い
・手首の親指側が腫れる

などです。

「ただの腱鞘炎だからそのうち治るだろう」と我慢していると、日常生活に支障が大きくなることもあります。

 

 

 

注射をすれば全員治るわけではありません

今回の研究では、初めてドケルバン病と診断された50人に対して、1回のステロイド注射を行い、その後の経過を調べています。

その結果、35人、つまり70%は6週間後、6か月後ともに症状が消失していました。

一方で、15人、30%では6週間以内に症状が再発しました。

また、痛みのVASスコアは平均8.5から2.0へ、上肢機能を評価するDASHスコアも平均74.1から19.3へ大きく改善しており、ステロイド注射そのものはドケルバン病に対する有効な治療法であることが示されています。

つまり、

「ドケルバン病だから注射が効かない」のではありません。

重要なのは、

「どのような患者さんで注射後に再発しやすいのか」

を見極めることです。

 

 

 

注目すべきポイントは「隔壁」です

今回の論文で特に注目したいのが、第1伸筋腱区画の中に存在する「隔壁(septum)」です。

通常、APL腱とEPB腱は同じ腱鞘内を走行していますが、人によってはその間に壁のような組織が存在し、腱鞘内が複数のスペースに分かれています。

研究では、50手中27手、54%に隔壁が確認されました。

そして非常に興味深いことに、注射後に再発した15例のうち、13例で隔壁が認められました。

統計解析では、隔壁が存在すると、隔壁がない場合と比較して再発のオッズが約18倍高いという結果でした。

さらに、APLやEPBの腱が複数本に分かれている「tendon slips」が1本増えるごとに、再発のオッズが約25倍高くなるという関連も認められています。

つまり、ドケルバン病の治療では「痛い場所に注射する」だけではなく、その患者さんの腱鞘がどのような構造になっているのかを確認することが重要なのです。

 

 

 

隔壁はエコーで確認できます

では、隔壁があるかどうかをどうやって調べるのでしょうか。

そこで役立つのが運動器エコー(超音波検査)です。

今回の研究でも、すべての患者さんに対して治療前にエコー検査を行い、APL、EPB、隔壁の有無、腱の本数などを評価しています。

論文中のエコー画像では、APLとEPBの間に隔壁があるケースや、APLが複数の腱束に分かれているケースが実際に示されています。

過去の研究についても、この論文では、エコーによる隔壁の検出について非常に高い感度・正確度が報告されていることが紹介されています。

レントゲンだけでは分からない腱や腱鞘の細かな構造を、その場で観察できることがエコーの大きなメリットです。

 

 

 

「注射か手術か」を考えるためにもエコーが重要です

ドケルバン病の患者さんにとって、

「できれば手術はしたくない」

という希望は当然あると思います。

ステロイド注射で改善が期待できるのであれば、まず保存治療を行うことは重要です。

一方で、隔壁があり、注射後に再発する可能性が高いと考えられる患者さんに対して、十分な評価を行わず注射だけを繰り返すことが常に最適とは限りません。

今回の論文でも、エコーで隔壁や腱の本数を確認することで、保存治療の成功可能性を患者さんに説明し、必要に応じて手術を含めた治療選択を検討できると述べられています。

なお、この研究で行われたステロイド注射自体はエコーガイド下ではありません。

したがって、この論文だけから「エコーを使って注射すれば必ず治療成績が上がる」とまでは言えません。

この論文から特に重要と考えられるのは、治療前にエコーで解剖学的構造を評価し、一人ひとりに合った治療方針を考えることです。

 

 

 

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは手外科専門医がエコーを使って診察します

ドケルバン病は、一見すると単純な「腱鞘炎」に思われるかもしれません。

しかし実際には、隔壁の有無、APL・EPBの走行、腱の本数など、患者さんによって解剖学的構造が異なります。

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科専門医が運動器エコーを用いて患部を観察し、隔壁が存在するかどうかを確認したうえで治療方針を検討します。

 

 

大切なのは、

「ドケルバン病だからとりあえず注射」ではなく、「この患者さんは注射で改善が期待できるのか、それとも手術を検討すべき状態なのか」を適切に判断することです。

 

手外科を専門とする医師が、診察所見とエコー所見を組み合わせることで、病態に応じた治療選択につなげます。

「以前に注射をしたけれど再発した」

「何度も腱鞘炎を繰り返している」

「手術が必要と言われたが本当に必要なのか知りたい」

「まず自分の手首がどうなっているのか詳しく調べたい」

このような方は、一度エコーで腱や腱鞘の状態を確認することをおすすめします。

診療内容について詳しくは、はせがわ整形外科運動器エコークリニック公式ホームページをご覧ください。

 

 

 

親指側の手首の痛みを我慢していませんか?

ドケルバン病では、早い段階で適切に診断し、その患者さんの状態に合った治療を選択することが大切です。

今回紹介した研究では、ステロイド注射によって70%の患者さんで症状が消失した一方、30%では再発がみられました。そして、隔壁や腱の本数といった解剖学的な違いが、再発と強く関連していることが示されました。

だからこそ、

「注射をするかどうか」だけではなく、「なぜ痛みが続いているのか」「隔壁はあるのか」「注射で改善が期待できる構造なのか」をエコーで評価することが重要です。

親指側の手首の痛みが続いている方、ドケルバン病と言われたものの改善しない方、注射後に再発した方は、何度も同じ治療を繰り返す前に、一度専門的な評価を受けてみてください。

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科専門医が運動器エコーを活用し、隔壁を含めた腱鞘の構造を確認したうえで、注射による治療が適しているのか、手術を検討すべきなのかを判断します。

ドケルバン病、親指側の手首の痛み、繰り返す腱鞘炎でお困りの方は、はせがわ整形外科運動器エコークリニックへご相談ください。

 

【執筆者】

はせがわ整形外科運動器エコークリニック 

院長 長谷川 英雄

奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など