楽器を演奏する方の中には、練習を重ねるうちに手や腕に痛みやこわばりを感じたことがある方も多いのではないでしょうか。音楽家、特にピアニストは、他の職業と比べて手や腕のケガ・不調のリスクが高いことが、これまでの研究でも指摘されてきました。

 

 

指先の繊細な動きを長時間にわたって繰り返す演奏という行為そのものが、手や腕に大きな負担をかけているのです。今回は、ピアノ演奏に伴う手の不調(演奏関連筋骨格系障害)とフォーカルジストニアのリスク要因をまとめた最新のスコーピングレビューをもとに、音楽家の手に起こりやすい問題と予防のポイントについて解説します。

 

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演奏家に起こりやすい手・腕の不調とは

音楽家に生じる手や腕の不調は、大きく分けて2つのタイプがあります。ひとつは、腱鞘炎や筋肉の使いすぎ(オーバーユース)による「演奏関連筋骨格系障害」で、痛みやこわばり、しびれなどを伴います。

 

もうひとつは「フォーカルジストニア」と呼ばれる神経学的な運動障害で、痛みはほとんどないものの、指が思うように動かせなくなったり、意図しない動きが出てしまったりする、演奏家特有の症状です。いずれも練習量の多いプロの演奏家に限らず、熱心に練習する学生やアマチュアの方にも起こり得る問題です。

 

 

 

ピアノ演奏に関する最新の研究が示すリスク要因

2026年に発表されたスコーピングレビューでは、ピアニストの演奏関連筋骨格系障害とフォーカルジストニアに関する17件の研究が分析されました。その結果、手が小さいこと、反復的な指の動き、休憩を取らない長時間の練習、身体に合わない演奏姿勢や椅子・鍵盤との距離といった要因が、不調の発症リスクを高めることが示されています。

 

一方で、ストレッチや練習前のウォームアップは、不調を防ぐための保護的な要因として位置づけられました。手の大きさという生まれ持った身体的特徴が影響するという点は、意外に感じる方も多いかもしれませんが、鍵盤や楽器の大きさに対して手が小さい場合、指を広げる動作や特定の運指で余分な負荷がかかりやすいことが背景にあると考えられます。

 

 

 

フォーカルジストニアと心理的ストレスとの関連

前述のレビューでは、心理的なストレスがフォーカルジストニアの発症に関わるリスク要因の一つとして挙げられています。また、2025年に発表された別の研究では、利き手と反対側の手に症状が出た患者さんよりも、利き手側に症状が出た患者さんの方が、治療によって演奏能力の改善が大きい傾向にあることも報告されています。

 

フォーカルジストニアは、痛みを伴わないために本人が「調子が悪い」と自覚しにくく、練習不足や技術的な問題だと誤解して、さらに練習量を増やしてしまうケースも少なくありません。症状に気づいた段階で専門的な評価を受けることが、悪化を防ぐ上で重要です。

 

 

 

予防のためにできること

演奏関連の手の不調を防ぐためには、日頃からいくつかのポイントを意識することが大切です。練習前後のウォームアップとクールダウンを習慣にすること、長時間の練習では適度に休憩を挟むこと、椅子の高さや鍵盤・楽器との距離など、自分の身体に合った演奏姿勢を見直すことなどが、研究でも予防的な要因として示されています。

 

痛みやしびれ、思うように指が動かないといった違和感を我慢しながら練習を続けることは、症状の悪化につながりかねません。違和感が続く場合は、早めに専門的な評価を受けることをおすすめします。

 

 

 

手の不調を感じたら専門医への相談を

当院では、手外科専門医による専門的な手の診療を行っており、超音波(エコー)検査を用いて、腱鞘炎や腱の炎症、神経の圧迫の有無などをその場でリアルタイムに確認することができます。演奏家特有の手の使い方によって生じる腱鞘炎(ばね指やドケルバン病など)についても、保存療法から日帰りでのエコーガイド下手術まで、症状に応じた対応が可能です。楽器を演奏していて手や腕に違和感がある方、練習量を増やしても改善しない痛みやこわばりがある方は、一度ご相談ください。

 

 

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まとめ

音楽家、特にピアニストの手や腕の不調は、反復動作や練習習慣、身体的な特徴、心理的なストレスなど、さまざまな要因が絡み合って生じることが、最新の研究からも明らかになっています。

 

痛みを伴う筋骨格系の不調と、痛みを伴わないフォーカルジストニアは性質が異なるため、症状に応じた適切な評価と対応が欠かせません。

 

練習前後のケアを習慣づけるとともに、違和感が続く場合は早めに専門医に相談することが、演奏活動を長く続けるための鍵となります。はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科専門医による丁寧な診察とエコーを活用した診断を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

 

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参考文献

  1. Tummolo AM, et al. Risk factors in piano playing techniques for developing playing-related musculoskeletal disorders and focal dystonia: a scoping review. Int J Occup Med Environ Health. 2026;39(3):236-244.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42478673/
  2. Doll-Lee J, Passarotto E, Altenmüller E, Lee A. The Role of Handedness and Extrainstrumental Burdens on the Course of Musicians’ Dystonia. J Mov Disord. 2025 Oct;18(4):355-359. doi: 10.14802/jmd.25064.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40518144/

 

 

【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄(https://medicalnote.jp/doctors/251104-001-DB)

奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など。