前回に引き続き、TFCC(三角線維軟骨複合体)に関する深堀りした論文紹介です。

Herzberg G, Burnier M, Nakamura T.
Arthroscopic Anatomy of the TFCC with Relevance to Function and Pathology. J Wrist Surg. 2021;10:558–564.

 

TFCC(三角線維軟骨複合体)は、手関節尺側痛や遠位橈尺関節(DRUJ)不安定症の診療において極めて重要な解剖学的構造です。しかしその立体的構造は複雑で、これまでの分類や解釈はやや断片的でした。

今回解説する論文は、TFCCを「3D-3パート構造」として再整理した画期的な関節鏡解剖の概念を提示しています。筆頭著者であるGuillaume Herzberg先生とは、当院院長が長年親しく交流させていただいている間柄で、フランスでのセミナーでも頻繁に意見交換を行っています。臨床と解剖、そして関節鏡技術を高度に融合させた視点は、まさにHerzberg先生ならではの内容といえます。

 

TFCCとは何か ― 基本機能の再確認

TFCCは遠位橈尺関節の「主たる受動的安定化機構」です。前腕回旋運動(回内・回外)において、尺骨頭と橈骨の間の回旋および並進運動を制御します。

従来は以下のような構造として説明されてきました。

・関節円板(disc proper)
・橈尺靱帯(radioulnar ligaments: RUL)
・尺側手根靱帯群
・ECU腱鞘床
・尺側関節包

しかし本論文では、これらをより理解しやすい「3D-3パート構造」に再整理しています。

 

TFCC 3D-3パート構造とは

本論文の核心は、TFCCを「箱状の三次元構造」として捉え、3つの機能的パートに分ける点にあります。

  1. R(Reins):橈尺靱帯のV字型構造

  2. W(Wall):周囲関節包壁

  3. D(Disc):関節円板

このシンプルな整理により、機能と病態が明確に結びつきます。

Rパート:V字型橈尺靱帯(DRUJ安定化機構)

Rパートは深層・浅層からなる背側(DRUL)および掌側(PRUL)橈尺靱帯で構成されます。特に深層線維は尺骨窩(fovea)に強固に付着し、DRUJ安定性の中核を担います。

回内・回外に伴う緊張変化(Eckenstam–Schvind paradox)についても解説されており、臨床的には「深層線維の修復・再建が重要」であると明確に示されています。

 

Rパートの病態

・Foveal avulsion(R1)
・橈骨側裂離(R2-4)

これらはDRUJ不安定を生じる「不安定型TFCC損傷」です。診断のゴールドスタンダードは関節鏡です。

Wパート:周囲関節包壁(手根安定化機構)

WパートはRULに直交する関節包性構造で、尺側手関節を包み込みます。

背側ではECU腱鞘床と連続し、掌側ではulnocarpal ligament群と連続します。特に掌側壁は厚く、手根骨の安定化に重要です。

 

Wパートの病態

・背側関節包裂離(W1)
・掌側裂離(W2)
・UTL縦裂(W3)
・ulnocarpal ligamentの遠位裂離(W4)

これらは多くが「DRUJ非不安定型TFCC損傷」です。

Dパート:関節円板(衝撃吸収機構)

Dパートは尺骨頭と近位手根列の間に介在する線維軟骨性クッションです。平均厚さは約1.2mmで、尺骨バリアンスと逆相関します。

つまり、尺骨プラスバリアンスがあるほど円板は薄くなり、変性しやすくなります。

 

Dパートの病態

・外傷性中央裂(D1)
・変性中央裂(D2)=尺骨突き上げ症候群

特に変性中央裂は慢性尺側手関節痛の主要原因です。

 

 

臨床的意義 ― なぜこの論文が重要なのか

本論文の最大の価値は、TFCC損傷を

R損傷
W損傷
D損傷

として機能的に整理できる点です。

これにより

・不安定か否か
・修復が必要か
・デブリドマンで良いか
・尺骨短縮が必要か

といった治療戦略が明確になります。

従来のPalmer分類を超えて、より機能解剖に基づいたアプローチが可能になります。

 

まとめ

TFCCは単なる「円板」ではありません。

本論文が示す3D-3パート構造

R(橈尺靱帯)
W(関節包壁)
D(円板)

という概念は、TFCCを立体的・機能的に理解するうえで非常に有用です。

フランスでのセミナーでHerzberg先生と議論させていただく中でも、この解剖概念が臨床判断に直結する重要なフレームワークであることを強く感じています。緻密で論理的な思考を好むHerzberg先生から生み出されたこの理論は、今後のTFCC診療の標準的理解となる可能性を秘めています。

 

TFCC損傷、DRUJ不安定症、尺骨突き上げ症候群の診療に携わる整形外科医にとって、本論文は必読といえるでしょう。かなり専門的な内容になりましたが、当院では他の医療機関からの紹介患者さんも積極的に受け入れています。簡単な紹介状を患者さんに渡していただき、Webで当院の初診予約をとるように促していただければ対応させていただきます。