母指CM関節症は、親指の付け根にある「母指CM関節」に起こる変形性関節症です。親指は、つまむ、握る、ひねる、支えるといった日常生活の多くの動作に関わるため、この関節に痛みが出ると生活の質が大きく低下します。

 

 

ペットボトルのふたを開ける、鍵を回す、洗濯ばさみをつまむ、包丁を使う、スマートフォンを持つといった何気ない動作で痛みが出る場合、母指CM関節症が隠れていることがあります。

 

 

今回ご紹介する論文は、2025年にJournal of Hand and Microsurgeryに掲載された「Safety and efficacy of platelet-rich plasma injections in basal thumb osteoarthritis; should we offer it or not?」という論文です。母指CM関節症に対するPRP注射の安全性と有効性を検討したシステマティックレビュー・メタ解析です。

 

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11872445/

 

この論文では、母指CM関節症に対してPRP注射を行った複数の臨床研究をまとめ、痛み、手の機能、ピンチ力、合併症などを総合的に評価しています。

 

結論から言うと、母指CM関節症に対するPRP注射は、痛みの軽減と手の機能改善が期待でき、大きな合併症は少ない治療選択肢として報告されています。

 

 

 

母指CM関節症はなぜつらいのか

母指CM関節は、親指の付け根にある関節です。医学的には第1手根中手関節とも呼ばれます。

親指は他の指と向かい合う「対立運動」ができる特別な指です。この動きがあるからこそ、人間は物をつまむ、細かい作業をする、道具を使うといった高度な手の機能を発揮できます。

しかし、その分だけ母指CM関節には大きな負担がかかります。加齢、女性ホルモンの変化、関節のゆるさ、使いすぎ、外傷、体質などが重なると、関節軟骨がすり減り、痛みや変形が生じます。

 

母指CM関節症では、次のような症状がよくみられます。

  • 親指の付け根が痛い
  • ペットボトルのふたが開けにくい
  • 鍵を回すと痛い
  • 洗濯ばさみをつまむと痛い
  • 包丁やハサミを使うと痛い
  • 親指の付け根が腫れている
  • 親指の付け根が出っ張ってきた
  • 力を入れてつまむことが難しい

 

母指CM関節症は「年齢のせい」と思われがちですが、適切に診断し、病期や症状に合わせて治療を選ぶことが非常に重要です。

 

 

 

 

PRP治療とは何か

PRPとは、Platelet-Rich Plasmaの略で、日本語では多血小板血漿と呼ばれます。

患者さんご自身の血液を採取し、専用の機器で遠心分離して、血小板を多く含む成分を抽出します。その成分を痛みの原因となっている部位に注射する治療です。

血小板には、組織修復や炎症の調整に関わる成長因子が含まれています。PRP治療では、この血小板に含まれる成分を利用して、関節内の炎症環境を整え、痛みの軽減や機能改善を目指します。

PRP治療は、膝関節や股関節などの比較的大きな関節で研究が進んできましたが、近年では手指や手関節などの小さな関節に対する応用も注目されています。

母指CM関節は非常に小さな関節であり、正確に注射を行うためには、手外科の知識と画像ガイド下手技の技術が重要になります。

 

 

 

今回の論文で調べられた内容

今回の論文では、母指CM関節症に対するPRP注射の安全性と効果を調べるために、過去に報告された研究を系統的に集めて解析しています。

対象となった研究は7本で、合計115人の患者さん、129関節が解析されました。患者さんの平均年齢は62.6歳で、女性が67.0%を占めていました。

母指CM関節症は中高年女性に多い疾患であり、今回の解析対象も実臨床に近い患者層と考えられます。

研究に含まれた患者さんでは、Eaton-Littler分類という母指CM関節症のレントゲン分類で、グレードIIIが最も多く、次いでグレードIV、グレードIIが多いという結果でした。

つまり、軽症例だけでなく、ある程度進行した母指CM関節症も含まれていました。

PRP注射の平均回数は1関節あたり1.4回で、注射量は平均約1.3mLでした。経過観察期間は平均14.1か月でした。

この論文は、母指CM関節症に対するPRP治療の現時点でのエビデンスを整理した重要な報告といえます。

 

 

 

 

PRP注射で痛みは改善したのか

今回の論文で最も重要なポイントの一つは、痛みの改善です。

5つの研究、98人の患者さんを対象にメタ解析が行われ、PRP注射後に統計学的に有意な痛みの軽減が認められました。

痛みの評価には、VAS、NRS、PRWHEなどの指標が用いられています。これらはいずれも、患者さん自身が感じる痛みや手の使いにくさを評価するための指標です。

母指CM関節症の痛みは、単に安静時の痛みだけではありません。力を入れてつまむ、物を開ける、手を使って作業をするなど、日常生活動作の中で強く出ることが多いのが特徴です。

PRP注射によって痛みが軽減する可能性が示されたことは、手術をすぐには希望しない患者さんにとって大きな意味があります。

ただし、すべての患者さんに同じ効果が出るわけではありません。変形の程度、炎症の状態、関節の不安定性、日常生活での負荷、併用する装具療法やリハビリの有無などによって、治療効果は変わります。

 

 

 

 

手の機能は改善したのか

今回の論文では、手の機能についても解析されています。

DASHまたはQuickDASHという、上肢の機能障害を評価する指標を用いた4つの研究、64人の患者さんを対象に解析したところ、PRP注射後に有意な改善が認められました。

DASHやQuickDASHは、腕、肩、手の使いにくさを評価する質問票です。母指CM関節症では、親指の痛みがあるだけでなく、手全体の使い方に影響が出るため、このような機能評価は非常に重要です。

親指の付け根が痛いと、無意識のうちに反対の手で代用したり、痛い動作を避けたりします。その結果、手の使用頻度が減り、筋力や巧緻性が低下することもあります。

PRP治療の目的は、単に痛みを一時的に抑えることだけではなく、患者さんが日常生活で手を使いやすくなることです。

その意味で、痛みだけでなく手の機能改善が示されたことは重要です。

 

 

 

つまむ力は改善したのか

母指CM関節症では、ピンチ力、つまり「つまむ力」が低下しやすくなります。

今回の論文では、握力については有意な改善は認められませんでした。一方で、ピンチ力については統計学的に有意な改善が認められました。

これは、母指CM関節症の病態を考えると非常に納得できる結果です。

握力は手全体で握る力であり、指や手関節、前腕筋群など多くの要素が関わります。一方、ピンチ力は親指の機能に強く依存します。

母指CM関節症で最も困るのは、強く握る動作よりも、物をつまむ、ひねる、支えるといった親指を使う動作です。

PRP治療後にピンチ力の改善が認められたことは、母指CM関節症の患者さんにとって実生活上のメリットにつながる可能性があります。

 

 

 

PRP注射の安全性はどうだったのか

今回の論文では、安全性についても重要な結果が示されています。

解析された研究の中で、大きな有害事象は報告されていませんでした。報告された合併症は、手掌側手関節ガングリオンが1例のみでした。

PRPは患者さん自身の血液から作成するため、薬剤アレルギーや拒絶反応のリスクが比較的少ない治療と考えられています。

もちろん、注射である以上、痛み、腫れ、内出血、感染、神経や腱への影響などのリスクはゼロではありません。

特に母指CM関節は小さく、周囲には神経、血管、腱、靱帯が密集しています。そのため、正確な解剖理解と安全な注射技術が求められます。

母指CM関節のような小関節へのPRP注射では、「PRPそのもの」だけでなく、「どこに、どのように、どれだけ正確に注射するか」が治療の質を大きく左右します。

 

 

 

エコーガイド下注射の重要性

今回の論文では、PRP注射の方法として、超音波ガイド、透視ガイド、X線ガイドなどが用いられていました。報告された研究の中では、超音波ガイドがよく使用されていました。

母指CM関節は小さく、関節の変形が進むと関節裂隙がさらに狭くなります。触診だけで正確に関節内へ注射することは、決して簡単ではありません。

エコーを使用すると、関節の位置、骨棘、滑膜炎、周囲の腱や血管などを確認しながら注射を行うことができます。

また、レントゲンでは分かりにくい軟部組織の状態も確認できるため、痛みの原因が本当に母指CM関節なのか、周囲の腱鞘炎や他の関節の問題が関係していないかを評価する助けにもなります。

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、運動器エコーを活用し、手指の小さな関節や腱、靱帯の状態を丁寧に評価しながら診療を行っています。

 

 

 

母指CM関節症にPRP治療を行う際の注意点

今回の論文では、PRP治療に一定の有効性と安全性が示されていますが、同時に限界も指摘されています。

最も大きな問題は、研究ごとにPRPの作成方法、注射量、注射回数、注射間隔、画像ガイドの方法、評価項目が異なっていることです。

PRPと一口に言っても、血小板濃度、白血球の含有量、活性化の有無、使用するキットなどによって性質が異なります。

そのため、「PRPならどれでも同じ」というわけではありません。

また、母指CM関節症の進行度によっても効果は変わる可能性があります。軽症から中等症では保存療法として有用な可能性がありますが、著しく変形が進行し、関節が不安定になっている場合には、手術を含めた治療選択が必要になることもあります。

PRP治療は万能ではありません。大切なのは、患者さんの病状を正確に診断し、装具、リハビリ、注射、手術を含めた選択肢の中から最適な治療を考えることです。

 

 

 

ステロイド注射との違い

母指CM関節症の保存療法として、従来からステロイド注射が行われることがあります。

ステロイド注射は炎症を抑える作用が強く、短期的な痛みの改善が期待できます。一方で、繰り返し使用する場合には、腱や皮膚、皮下組織、軟骨への影響を考慮する必要があります。

PRP治療は、強力に炎症を抑え込むというより、血小板由来の成長因子を利用して、関節内の環境を整えることを目的とした治療です。

今回の論文では、PRP注射とステロイド注射を比較した研究も含まれており、PRPの方が痛みや機能評価で良好な結果を示した報告もありました。

ただし、現時点では研究数が十分とは言えず、今後さらに質の高いランダム化比較試験が必要とされています。

ステロイド注射とPRP注射は、目的や作用の考え方が異なるため、患者さんの状態に応じて使い分けることが重要です。

 

 

 

手術を避けたい患者さんにとってのPRP治療の位置づけ

母指CM関節症の治療には、装具療法、内服薬、外用薬、リハビリ、関節内注射、手術などがあります。

軽症から中等症では、まず保存療法を行うことが一般的です。しかし、痛みが強く、日常生活に支障が大きい場合や、保存療法で十分な改善が得られない場合には、手術が検討されることもあります。

 

 

PRP治療は、手術と従来の保存療法の間に位置する選択肢と考えることができます。

  • 手術をすぐには希望しない
  • ステロイド注射を繰り返したくない
  • 装具やリハビリだけでは痛みが残る
  • 親指を使う仕事や趣味を続けたい
  • できるだけ自分の関節を温存したい

 

このような患者さんにとって、PRP治療は検討する価値のある選択肢となる可能性があります。

ただし、PRP治療を行う前には、本当にPRPが適している状態なのかを手外科専門の視点で評価することが大切です。

 

 

 

 

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでの手指PRP治療

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手指へのPRP治療の実績が多数あります。

手指は非常に小さく、繊細な構造を持っています。母指CM関節、PIP関節、DIP関節、腱鞘、靱帯、神経、血管などが密集しており、痛みの原因を正確に見極めるには専門的な知識が必要です。

当院では、手外科医としての専門的な立場から、診察、レントゲン評価、運動器エコー評価、保存療法、注射治療、リハビリ、手術適応の判断まで、総合的に診療を行っています。

PRP治療は、単に注射を行えばよいという治療ではありません。

  • どの関節が痛みの原因なのか
  • 変形の程度はどのくらいか
  • 炎症が強いのか
  • 関節の不安定性があるのか
  • 腱鞘炎やTFCC損傷など他の疾患が隠れていないか
  • 装具やリハビリを併用すべきか
  • 手術を考えるべき段階なのか

こうした点を総合的に判断する必要があります。

 

 

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手外科医が責任をもって診断から治療方針の決定まで行い、PRP治療だけに偏らない包括的な医療を提供しています。

リンク:はせがわ整形外科運動器エコークリニック

 

 

 

PRP治療だけでなく、リハビリや装具も重要です

母指CM関節症では、注射治療だけでなく、手の使い方、装具、リハビリも重要です。

親指の使い方に癖があると、母指CM関節への負担が増えます。関節を支える筋肉の働きが低下している場合、痛みが繰り返されることもあります。

装具療法では、母指CM関節を安定させ、痛みの出る動作を減らすことができます。リハビリでは、親指の正しい使い方、関節への負担を減らす動作、周囲筋の調整などを行います。

また、手術が必要な患者さんにも対応します。たくさんの母指CM関節症手術を経験してきた手外科専門医が注射だけでなく手術も対応することで責任ある治療を提供できます。

PRP治療の効果を最大限に引き出すためには、注射だけでなく、手外科的な診断、エコー評価、装具、リハビリを組み合わせた総合的な治療が重要です。

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どのような方が相談すべきか

次のような症状がある方は、母指CM関節症の可能性があります。

  • 親指の付け根が痛い
  • 物をつまむと痛い
  • ペットボトルのふたを開けるのがつらい
  • 鍵を回すと親指の付け根が痛い
  • 親指の付け根が腫れている
  • 親指の付け根が出っ張ってきた
  • 湿布や痛み止めで改善しない
  • ステロイド注射を繰り返している
  • 手術以外の治療選択肢を知りたい
  • PRP治療に興味がある

このような場合は、早めに専門的な診察を受けることをおすすめします。

母指CM関節症は、早い段階で適切に診断し、治療を組み立てることで、痛みを抑えながら手の機能を守れる可能性があります。

 

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今回の論文から分かること

今回のシステマティックレビュー・メタ解析では、母指CM関節症に対するPRP注射について、以下のような結果が示されました。

  1. PRP注射後に痛みが有意に軽減した
  2. DASHやQuickDASHで評価した手の機能が改善した
  3. 握力の明らかな改善は認められなかった
  4. ピンチ力は有意に改善した
  5. 患者満足度は73.7%だった
  6. 大きな有害事象は報告されなかった
  7. ただし、PRPの作成方法や注射方法にばらつきがあり、今後さらに研究が必要である

この論文は、母指CM関節症に対するPRP治療が、痛みの軽減と手の機能改善を目指す保存療法の一つとして有望であることを示しています。

一方で、治療効果を正しく判断するには、診断の正確さ、注射技術、患者さんごとの病態評価が欠かせません。

 

 

 

 

母指CM関節症でお悩みの方へ

母指CM関節症は、日常生活に大きな影響を与える疾患です。

 

「年齢のせいだから仕方ない」

「湿布で様子を見るしかない」

「手術しかないと言われた」

「注射をしてもすぐに痛みが戻る」

 

 

このように感じている方も少なくありません。

しかし、母指CM関節症の治療にはさまざまな選択肢があります。PRP治療もその一つです。

大切なのは、患者さんごとの痛みの原因、関節の状態、生活背景、仕事や趣味での手の使い方を丁寧に評価し、適切な治療を選択することです。

 

 

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、手指へのPRP治療の実績を活かし、手外科医として責任をもって、診断から治療まで包括的に対応しています。

 

 

母指CM関節症、親指の付け根の痛み、手指の関節痛、手の変形、PRP治療についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

 

手は、生活の質を支える大切な器官です。痛みを我慢し続けるのではなく、専門的な評価を受け、今の状態に合った治療を一緒に考えていきましょう。

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