前回のブログ記事で、なぜ中指にばね指が多いのかを解説しました(前回記事は こちら https://hasegawaseikei.com/2026/01/02/620/)。この記事の中で紹介した論文が気になって仕方なかったので、今回は解剖研究をおこなった論文について掘り下げます。

屈筋腱プーリーは、腱を骨に近づけて効率的な屈曲を可能にする重要な構造です。しかし、教科書に描かれるような「A1〜A5、C1〜C3が整然と並ぶ」イメージとは異なり、実際の人間の指では大きな個体差が存在します。

従来の解剖図
今回紹介する研究は、48手・192指という非常に大規模なサンプルを用いて、各プーリーの出現頻度、形態、長さ、そしてこれまでほとんど研究されてこなかった「プーリー間ギャップ」を詳細に解析したものです。臨床に携わる方にとって、手術時のランドマーク理解や損傷評価に役立つ内容が多く含まれています。
A1・A2・A4は全指で必ず存在する
A1、A2、A4の三つは、全192指で100%確認されました。 特にA2とA4は形態が安定しており、厚く明瞭で、手術時のランドマークとして非常に信頼性が高い構造です。
A1は全例に存在するものの、リング数にバリエーションがあり、1〜4リングまで確認されています。
A3・A5・C1・C2・C3は大きく変動する
A3、A5、C1、C2、C3は指によって出現率が大きく異なります。
A3:90.1%
A5:51.5%(過去研究より大幅に低い)
C1:75.5%
C2:13.5%(非常に低頻度)
C3:39.6%
特にC2とC3は欠損が多く、A4と連続して見えるため、手術時に誤認しやすい部位です。
プーリー間ギャップの詳細解析は世界初
本研究の大きな特徴は、各プーリー間の「ギャップ」を詳細に測定した点です。
出現率が高いギャップ
A1–A2 ギャップ:81.8% 最も安定して存在し、特に小指で長い傾向があります。
出現率が極めて低いギャップ
A4–C3 ギャップ:2.1% ほとんど存在せず、C3はA4の延長と見えることが多い。
C2–A4 ギャップ:6.25%
C3–A5 ギャップ:6.77%
ギャップが無い場合、プーリーが連続して見えるため、手術時に「本来のプーリー位置を見落とす」リスクが高まります。
指ごとのプーリーパターンは24種類も存在する
192指を解析した結果、なんと24種類ものプーリー配置パターンが確認されました。
最も多いパターン(18.2%)
A1–A2–C1–A3–A4
指別の最多パターン
示指:A1–A2–C1–A3–A4
中指:A1–A2–C1–A3–A4–C3–A5
環指:A1–A2–C1–A3–A4–A5
小指:A1–A2–C1–A3–A4
全プーリーが揃う“完全型”(A1〜A5+C1〜C3)
わずか1.56%(3指のみ)
最小構成(A1–A2–A4)
小指で2例確認
教科書的な「完全なプーリー構成」は、実際にはほとんど存在しないことが明らかになりました。
手術時の注意点
プーリーの欠損や連続化により、ランドマークの誤認が起こりやすい
特にC3はA4の一部と誤認されやすい
小指は変異が最も多く、慎重な観察が必要
まとめ
A1/A2/A4 プーリーは必ず存在する
A3/A5/C1/C2/C3 プーリーは大きく変動する
プーリー間ギャップは手術時の誤認防止に重要
指ごとに最も多いプーリーパターンが異なる
教科書的な完全パターンはほとんど存在しない
前回に引き続き、マニアックな論文解説になってしまいましたがいかがでしたでしょうか?患者さんにも知っていただきたい内容ですが、ばね指治療にあたる整形外科、手外科の先生方とも共有したい解剖学の研究内容です。個人的には、それぞれのプーリーパターンとばね指の罹患率に関連があるのか興味が湧くところであります。
今回紹介した論文の情報は実際に手術をしたり、ばね指について考えるうえで非常に貴重なデータです。バネ指は単純なようで奥が深い病気です。手外科専門医による適切な治療をうけられることをおすすめします。当院では手外科専門医が「平野区の手外科」として最先端の治療を提供します。
当院での「切らない」ばね指治療は こちら を参照ください。
当院でのばね指手術の説明動画は こちら をご覧ください。





