はじめに
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)は、日常生活やスポーツ活動において頻繁にみられる整形外科的疾患です。治療法の一つとしてステロイド注射(コルチコステロイド注射)が広く行われてきましたが、近年の高品質なシステマティックレビューやメタアナリシスにより、その有効性に疑問が呈されています。本記事では最新の研究結果を整理し、ステロイド注射の効果について科学的根拠をもとに解説します。

ステロイド注射の短期効果
複数の研究で、ステロイド注射は短期的(約1か月以内)には疼痛軽減効果が認められています。例えば、あるメタアナリシスでは初月においてプラセボより有意に痛みが改善されました(SMD -1.04, 95%CrI -1.78 ~ -0.34)[1]。しかし、この効果は持続せず、3か月以降では消失することが示されています。
中期・長期効果の欠如と有害性
BMJ Openのレビュー(2013年)では、短期的には改善が見られるものの、中期(26週)ではむしろ痛みが悪化(SMD 0.32, 95%CI 0.13 ~ 0.51)、長期(52週)ではプラセボと差がない、あるいは悪化傾向が報告されています[2]。
最新ガイドライン(2022年)でも、694例を対象とした10RCTのメタアナリシスにて、痛み・機能ともにプラセボとの差は認められず、強い推奨として「コルチコステロイド注射はプラセボと同等」と結論されています[1]。
ネットワークメタアナリシス(2022年)では、6か月以降の疼痛・機能・握力においてプラセボとの差は消失し、持続的な有効性は認められませんでした[3]。
これらの結果から、ステロイド注射は短期的な痛み緩和には有効であるものの、中期以降では効果が失われ、むしろ有害となる可能性が示されています。
GRADE評価と臨床的意義
各レビューのGRADE評価は「moderate〜low」とされており、エビデンスの質は中程度以下です。しかし、複数のRCTやレビューで結果が一致していることから、臨床的には「ステロイド注射は推奨されない」という結論が支持されています。
臨床現場へ活かせる情報
短期的な疼痛緩和を目的とする場合には一時的な選択肢となり得ますが、中期以降の有効性は期待できません。
むしろ回復を妨げたり痛みを増悪させる可能性があるため、第一選択の非手術療法としては推奨されません。
保存療法(理学療法、運動療法、生活習慣改善など)が長期的な改善に有効であると考えられます。
結論
上腕骨外側上顆炎に対するステロイド注射は、短期的には疼痛軽減効果があるものの、中期以降では効果が消失し、むしろ有害となる可能性が複数の高品質な研究で示されています。最新のガイドラインやメタアナリシスの総合的評価により、「有効ではない、あるいは有害」と結論づけられており、臨床現場では慎重な判断が求められます。
当院では上腕骨外側上顆炎(テニス肘)に対するあらゆる治療選択をご用意しています。安易なステロイド注射に頼らない、きちんとしたエビデンスに基づいた最新治療を受けたい方は当院までまずはお越しください。
【執筆者】
はせがわ整形外科運動器エコークリニック
院長 長谷川 英雄
奈良県立医科大学医学部卒業。日本整形外科学会専門医・日本手外科学会専門医(医学博士)。手外科・運動器エコー診療を専門とし、国内外で研究・教育活動にも従事。チェンマイ大学医学部(タイ)派遣研究員、サン・ロッククリニック(フランス)留学、IRCAD台湾・IRCADストラスブール招聘講師を歴任。日本整形外科超音波学会評議員、Journal of Orthopaedic ScienceおよびJournal of Medicine and Urban Health査読委員など
参考文献
[2] Olaussen M. et al., BMJ Open, 2013 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11980122/
[3] Lapner P. et al., Can J Surg., 2022 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12113477/










