手根管症候群は、手のしびれや痛み、筋力低下を引き起こす疾患で、正中神経が手根管内で圧迫されることが原因です。治療法としては保存療法のほか、症状が進行した場合には手術による神経の除圧が必要となります。
従来の手術では皮膚を3〜5cm程度切開し、横手根靱帯(屈筋支帯)を切離する方法が一般的でした。その後内視鏡を使った治療が広まりました。近年ではより低侵襲な手法として、エコーを用いた手術が注目されています。
Kemisナイフとは
フランスで開発されたKemisナイフは、エコーガイド下での手根管開放術に特化した特殊な器具です。以下のような特徴があります。
神経や血管などの重要な組織を保護しながら、横手根靱帯を安全に切開できるよう設計されています。
手首や手掌側に7〜10mm程度の小さな切開を加えるだけで手術が可能です。
エコー画像を確認しながら処置を行うため、視認性が高く、より安全な操作が可能です。
エコーガイド下手根管開放術のメリット
切開創が小さいため、術後の痛みが軽減され、回復も早い傾向があります。
神経・血管損傷のリスクが低い構造のナイフを使用することで、安全性が向上します。
エコーによるリアルタイムの視認により、靱帯の切開が確実に行え、不完全切開や合併症のリスクを抑えることができます。
デメリット・注意点
この手術には高度な技術と経験が必要であり、術者の習熟度が結果に大きく影響します。
特殊な器具が必要なため、すべての医療機関で受けられるわけではありません。
当院では、フランスでこの技術を習得した医師がいます。
他の手術法との比較
| 手法 | 切開の大きさ | 術後痛み | 回復期間 | 神経損傷リスク | 特殊器具 |
|---|---|---|---|---|---|
| 従来法 | 3〜5cm程度 | やや強い | 長い | 標準 | 不要 |
| 内視鏡 | 1〜2cm以下 | 軽い | 短い | 低い(操作難度高) | 必要 |
| エコーガイド下 | 7〜10mm程度 | 非常に軽い | 非常に短い | 非常に低い | 必要 |
まとめ
Kemisナイフを用いたエコーガイド下手根管開放術は、従来法や内視鏡手術に比べてさらに低侵襲で、安全性を重視した新しい治療法です。特に早期の社会復帰を希望される方や、術後の痛みを最小限に抑えたい方にとって、有力な選択肢となり得ます。
ただし、保険診療での取り扱いや器具の承認状況など、制度面での課題もあるため、治療をご検討の際は医師と十分にご相談ください。

