論文タイトル: 「The effects of percutaneous ultrasound tenotomy on chronic tendinopathy in a rabbit Achilles’ tendon model」

著者:Neil A Segal, Susan Li, Lauren Neuman, Andrew Ly and Jianying Zhang

掲載雑誌:International Journal of Orthopaedics Sciences 2022; 8(4): 37-43

論文リンク:https://doi.org/10.22271/ortho.2022.v8.i4a.3239

はじめに:腱症とは何か

慢性腱症(chronic tendinopathy)は、腱に繰り返し加わるストレスや微小損傷により、腱組織が変性し、痛みや機能障害を引き起こす疾患です。アキレス腱や肘、肩などに多く見られ、スポーツ選手だけでなく一般の人にも発症します。テニス肘、ゴルフ肘、足底腱膜炎といった疾患もこれにあてはまります。保存療法(安静、リハビリ、薬物療法など)で改善しないケースも多く、治療に難渋することがあります。

Tenexによる治療とは?

Tenexによる超音波処置は、超音波ガイド下で特殊な針を用いて腱組織に微細な切開を加える低侵襲治療法です。変性した腱組織を刺激し、血流や細胞の再生を促すことで、腱の修復を図るとされています。これまで臨床的な効果は報告されていましたが、組織レベルでの変化については十分に検証されていませんでした。

 

研究概要:ウサギを用いた慢性腱症モデルでの検討

この研究では、慢性腱症に対するTenexの効果を病理組織学的に評価するため、以下のような動物実験が行われました。

実験デザイン

  • 対象動物:成熟したニュージーランド・ホワイト種の雄ウサギ10匹

  • 腱症モデルの作成:両側アキレス腱にKartogenin(KGN)ビーズを注入し、慢性腱症を誘導

  • 処置方法:6週間の自由運動後、片側アキレス腱に60秒間のTenexを実施。反対側は無処置の対照群とした

  • 評価時期:さらに6週間後に両側アキレス腱を摘出し、組織学的解析を実施

結果:Bonarスコアでの改善が示唆するもの

組織学的評価では、以下のような結果が得られました。

  • コラーゲン配列、細胞密度、基質沈着:統計的有意差は認められず

  • Bonarスコア(腱の病変評価指標)

    • 表層で平均1.7ポイントの改善(p=0.037)

    • 腱全体でも改善傾向(p=0.059)

Bonarスコアは、腱の変性度を評価する指標であり、スコアが低いほど正常に近い状態を示します。今回の結果は、Tenexが腱組織の再構築を促進し、病的変化を改善する可能性を示唆しています。

Tenexは腱の「治癒」を促す治療法か?

この研究の意義は、Tenexが単なる症状緩和ではなく、腱組織の生物学的修復を促す可能性がある点にあります。慢性腱症は炎症性疾患ではなく、腱の変性が中心であるため、組織の再構築を促す治療が求められます。Tenexはそのニーズに応える新たな選択肢となるかもしれません。

医学生への学びのポイント

  • 慢性腱症は変性疾患であり、治療には構造的修復が重要

  • Tenexは低侵襲かつ画像誘導下で行える新しい治療法

  • Bonarスコアは腱の病理評価に用いられる有用な指標

  • 動物実験から得られた知見は、今後の臨床応用に向けた基礎となる

おわりに

テニス肘、ゴルフ肘、足底腱膜炎といった腱付着部症に対する治療法として、Tenexは今後さらに注目される可能性があります。当院ではこの最新治療を全国でも先駆けて導入し、担当医師は豊富な実績があります。