手外科の分野において、「No Man’s Land(ノーマンズランド)」という言葉は、特定の解剖学的領域を指す専門用語として知られています。これは、手の構造の中でも特に手術が難しく、損傷後の治療や修復が困難とされる部位を意味します。

 

臨床的な意味とその位置

「No Man’s Land」と呼ばれるのは、手掌、つまり手のひらの中でも指の屈筋腱が走行する領域です。具体的には、中手骨頭から中節骨基部にかけてのエリアで、浅指屈筋腱と深指屈筋腱が複雑に交差しながら配置されています。

この部位には腱だけでなく、神経や血管も密集しており、損傷時には癒着や断裂の修復が非常に難しいとされています。そのため、外科的介入には高度な技術と慎重な判断が求められます。

 

歴史的背景と呼称の由来

「No Man’s Land」という呼称は、「手外科の父」と呼ばれるBunnell医師によって提唱されました。彼はこの領域の腱損傷について、「安易に手術すべきではない」と警鐘を鳴らしており、その難易度の高さからこのような名称が定着しました。

当時は治療の成功率が低く、手術による合併症も多かったため、外科医たちはこの領域を避ける傾向にありました。しかし、現代では医療技術の進歩により、治療成績は大きく向上しています。

 

現代の臨床における位置づけ

現在でも「No Man’s Land」は、手術の際に特別な配慮が必要な領域として認識されています。術式の選択や術後のリハビリテーションには細心の注意が求められ、患者の機能回復には多職種による連携が不可欠です。この言葉は単なる解剖学的な名称ではなく、手外科における治療の難しさと慎重さを象徴する言葉です。過去の困難を乗り越え、現在では多くの患者がこの領域の損傷から回復できるようになったことは、医療の進歩を物語っています。

 

実は「ばね指」はこのNo Man’s Landで起こる疾患です手術もこの部分を処置する必要があります。ばね指はこれまでの記事でも述べてきたように腱鞘を切開するだけの単純な手術で治療されますが、術後に腫れが残ったりすることもあります。手外科に精通していないものが手を出すと思わぬ合併症が生じたりするため、院長の師匠はSpecial man’s land (限られたものだけが手出しできる領域)と呼んでいました。

 

当院では他院で行われたばね指手術で上手くいかなかった患者さんも積極的に受け入れて手外科専門医による専門的な治療を提供しています。皆さんが安心して手外科治療を受けられるように最善を尽くしています。

 

詳しくは当院ホームページへ

切らないばね指の紹介動画

 

リンク

手外科学会ホームページ

https://www.jssh.or.jp/doctor/jp/publication/onkochishin/o_02.pdf