
お尻の下のあたりが痛い、長く座っていると殿部が痛くなる、ランニングやスポーツで太ももの裏からお尻にかけて痛む。このような症状がある場合、腰痛や坐骨神経痛だけでなく、近位ハムストリングス障害が原因になっていることがあります。
近位ハムストリングスとは、太ももの裏にあるハムストリングスの筋肉が、骨盤の坐骨結節という部分に付着する場所のことです。簡単にいうと、お尻の下の骨に太ももの裏の腱がくっついている部分です。
今回ご紹介する論文では、近位ハムストリングス障害について、腱障害、部分断裂、完全断裂に分けて、症状、診断、画像検査、治療方法が整理されています。
殿部痛は「腰からくる痛み」と思われがちですが、実際にはハムストリングスの付着部そのものが痛みの原因になっていることがあります。
近位ハムストリングス障害とは
ハムストリングスは、太ももの裏にある筋肉群です。歩行、ランニング、ジャンプ、ダッシュ、階段昇降などで重要な役割を担っています。
このハムストリングスは骨盤の坐骨結節から始まります。坐骨結節は、椅子に座ったときに体重がかかる「お尻の下の骨」です。そのため、この部分に炎症や腱の傷みが起こると、座っているだけで痛い、車の運転で痛い、ランニングで痛いといった症状が出ることがあります。
論文では、近位ハムストリングス障害は大きく以下の3つに分類されています。
- 近位ハムストリングス腱障害
- 近位ハムストリングス部分断裂
- 近位ハムストリングス完全断裂
それぞれ症状や治療方針が異なるため、正確な診断が非常に重要です。

坐骨付近の痛みが続く「近位ハムストリングス腱障害」
近位ハムストリングス腱障害は、明らかな外傷がなく、繰り返しの負荷によって腱が傷んでいく状態です。
論文では、長距離ランナーやハードル選手など、ハムストリングスに反復して負荷がかかるスポーツで多いとされています。スポーツをしていない方でも、長時間の座位、車の運転、階段、坂道歩行などで症状が出ることがあります。
特徴的な症状は以下の通りです。
- お尻の下が痛い
- 坐骨のあたりが痛い
- 長く座ると痛い
- 車の運転で痛い
- ランニングで殿部から太ももの裏が痛い
- ストレッチで太ももの裏からお尻が痛い
- ときどき坐骨神経痛のように足へ響く
「腰のMRIでは大きな異常がないのに、お尻から太ももの裏が痛い」という方では、近位ハムストリングス腱障害を考える必要があります。
なぜ殿部痛が起こるのか
ハムストリングスは、股関節と膝関節の両方をまたぐ筋肉です。そのため、股関節を曲げた状態で膝を伸ばす動作、つまり太ももの裏が強く伸ばされる姿勢で大きな負荷がかかります。
ランニングのスイング期、ダッシュ、キック動作、前屈姿勢、強いストレッチなどでは、ハムストリングスの付着部に強い牽引力が加わります。
この負荷が繰り返されると、坐骨結節に付着する腱に微細な損傷が蓄積し、腱が厚くなったり、周囲に炎症が起きたりします。
痛みの場所が「お尻」でも、原因は腰ではなく、坐骨に付着する腱のトラブルであることがあります。
診断ではエコーとMRIが重要です
論文では、近位ハムストリングス障害の診断において、超音波検査とMRIが有用であると述べられています。
レントゲンでは骨の大きな異常は確認できますが、腱や筋肉の状態を詳しく評価することは困難です。そのため、腱の腫れ、断裂、付着部の炎症、周囲組織との関係を評価するには、エコーやMRIが重要になります。
エコー検査の利点は、診察室でリアルタイムに腱の状態を確認できることです。痛い場所を押さえながら画像で確認できるため、患者さんが痛みを感じている部位と、実際に傷んでいる組織を結びつけて評価しやすいという特徴があります。
MRIは深部の状態や、部分断裂、完全断裂、腱の引き込みの程度を詳しく確認するのに有用です。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、運動器エコーを活用し、殿部痛の原因が腰なのか、股関節なのか、ハムストリングス付着部なのかを丁寧に評価することを重視しています。
近位ハムストリングス腱障害の治療
近位ハムストリングス腱障害の初期治療は、手術ではなく保存療法が中心です。
論文では、保存療法として以下の治療が挙げられています。
- リハビリテーション
- 遠心性収縮トレーニング
- Heavy Slow Resistance training
- 体外衝撃波治療
- 注射治療
- PRP治療
腱障害では、単に安静にするだけでは十分でないことがあります。腱に適切な負荷をかけながら、筋力、柔軟性、骨盤周囲の安定性を改善していくことが大切です。
特に重要なのは、痛みの原因を正確に見極めたうえで、腱に対して適切な治療を組み合わせることです。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、エコーで病変部を確認しながら、患者さんの症状や活動レベルに応じて治療方針を検討します。
また、腱付着部症に対するTenexも積極的に施行しておりますので、最先端の治療選択が可能です。
体外衝撃波治療は慢性腱障害に対する選択肢
論文では、慢性の近位ハムストリングス腱障害に対して体外衝撃波治療が有用であった研究が紹介されています。体外衝撃波治療を受けた群では、従来の保存療法と比較して、痛みの改善やスポーツ復帰率が良好であったとされています。
体外衝撃波治療は、腱付着部の慢性的な痛みに対して用いられる治療の一つです。薬だけで痛みを抑えるのではなく、傷んだ腱周囲の治癒反応を促すことを目的とした治療です。
長く続く殿部痛では、湿布や痛み止めだけで改善しないことがあります。そのような場合には、腱障害として評価し、体外衝撃波治療などを含めた治療戦略を考えることが重要です。
エコーガイド下注射という選択肢
論文では、近位ハムストリングス腱障害に対する注射治療として、エコーガイド下ステロイド注射やPRP注射についても紹介されています。
注射治療で重要なのは、どこに注射するかです。
殿部の深い部分には、ハムストリングスの腱だけでなく、坐骨神経など重要な組織も存在します。そのため、正確な位置に安全に薬液を届けるには、エコーで確認しながら行うことが重要です。
エコーガイド下注射では、腱、坐骨結節、周囲組織、神経の位置を確認しながら注射を行うことができます。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、エコーを用いて病変部を確認しながら、より正確で安全性に配慮した治療を行います。
PRP治療は難治性腱障害への新しい選択肢
近年、腱障害に対する治療としてPRP治療が注目されています。PRPとは、多血小板血漿のことで、患者さん自身の血液から血小板を多く含む成分を取り出し、傷んだ組織の治癒を促すことを目的とした治療です。
論文では、近位ハムストリングス腱障害に対してPRP注射が使用されていることが紹介されています。ただし、現時点では研究の質に限界があり、すべての患者さんに確実な効果があると断言できる段階ではありません。
それでも、通常の保存療法で改善しにくい慢性腱障害に対して、PRP治療は選択肢の一つになり得ます。
大切なのは、PRPを単独の“万能治療”として考えるのではなく、エコー診断、リハビリ、負荷管理、必要に応じた注射治療を組み合わせて総合的に治療することです。
部分断裂では早期診断が重要です
近位ハムストリングスの部分断裂は、慢性的な腱障害の延長として起こる場合と、スポーツ中の急な動作で発生する場合があります。
受傷時に「ブチッ」「ポンッ」という感覚があった、急にお尻から太ももの裏が痛くなった、内出血が出てきた、歩きにくいという場合には、部分断裂や完全断裂を疑う必要があります。
論文では、部分断裂の診断においてもエコーが有用であると述べられています。特に急性期では、診察室で腱の連続性を確認できるエコー検査が役立ちます。
ただし、微細な部分断裂や深部の病変ではMRIが必要になることもあります。
殿部痛を単なる肉離れとして放置すると、治療開始が遅れる可能性があります。
完全断裂では手術が必要になることがあります
近位ハムストリングス完全断裂は、ハムストリングスの腱が坐骨結節から大きく剥がれてしまう状態です。
論文では、完全断裂では保存療法だけでは筋力低下やスポーツ復帰率の低下が残ることがあり、活動性の高い患者さんやアスリートでは手術治療が推奨されることが多いとされています。
特に、急性期に手術を行った方が、慢性化してからの手術よりも成績が良い傾向が示されています。
完全断裂では、以下のような症状が見られることがあります。
- 急にお尻から太ももの裏に強い痛みが出た
- 受傷時に音がした、または切れた感覚があった
- 太ももの裏に大きな内出血が出た
- 歩行がぎこちない
- 膝を曲げる力が入りにくい
- 坐骨神経痛のように足にしびれや放散痛がある
このような症状がある場合は、早めの整形外科受診が重要です。
近位ハムストリングス完全断裂は、早期に診断して適切な治療方針を決めることが、その後の機能回復に大きく関わります。
腰痛や坐骨神経痛と間違われやすい理由
殿部痛や太ももの裏の痛みがあると、多くの方は「坐骨神経痛ではないか」「腰椎椎間板ヘルニアではないか」と考えます。
もちろん、腰が原因で殿部から足に痛みが出ることはあります。しかし、すべての殿部痛が腰から来ているわけではありません。
近位ハムストリングス腱障害でも、坐骨神経の近くで炎症や瘢痕が生じると、太ももの裏へ響くような痛みが出ることがあります。そのため、症状だけでは腰由来の痛みと区別しにくい場合があります。
このようなときに役立つのが、診察とエコー検査です。
痛みの場所を丁寧に確認し、坐骨結節周囲の腱や神経の状態を評価することで、腰だけでは説明できない殿部痛の原因に近づくことができます。
このような症状がある方はご相談ください
以下のような症状がある方は、近位ハムストリングス障害が隠れている可能性があります。
- 座っているとお尻の下が痛い
- 長時間の運転で殿部が痛くなる
- ランニング中にお尻から太ももの裏が痛い
- ストレッチで坐骨付近が痛い
- 太ももの裏の肉離れがなかなか治らない
- スポーツ中にお尻の下でブチッとした感覚があった
- 太ももの裏に内出血が出た
- 腰の治療をしても殿部痛が改善しない
- 坐骨神経痛と言われたが、座位で特に痛みが強い
殿部痛が長引く場合、痛みの原因を「腰」と決めつけず、坐骨周囲の腱や筋肉を評価することが大切です。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックで行う殿部痛の診療
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、殿部痛に対して、問診、身体診察、エコー検査を組み合わせて原因を丁寧に評価します。
殿部痛の原因は一つではありません。腰椎疾患、股関節疾患、梨状筋周囲の問題、坐骨神経周囲の問題、近位ハムストリングス腱障害、部分断裂など、さまざまな病態が考えられます。
そのため、痛い場所だけでなく、痛みが出る姿勢、スポーツ歴、座位での症状、歩行時の痛み、しびれの有無などを総合的に確認します。
当院では、エコーを用いて筋肉、腱、靱帯、神経周囲の状態をリアルタイムに確認しながら、患者さん一人ひとりに合わせた治療方針を提案します。
必要に応じて、リハビリテーション、体外衝撃波治療、エコーガイド下注射、PRP治療などを組み合わせ、痛みの改善と再発予防を目指します。
殿部痛は我慢せず、原因を調べることが大切です
お尻の痛みは、日常生活の中で非常につらい症状です。座る、歩く、運転する、階段を上る、スポーツをする。これらすべての動作で痛みが出ると、生活の質は大きく低下します。
しかし、殿部痛は原因が分かりにくく、腰痛や坐骨神経痛として治療されても改善しないことがあります。
今回の論文が示すように、近位ハムストリングス障害は、腱障害から部分断裂、完全断裂まで幅広い病態を含みます。そして、それぞれで適切な治療方針が異なります。
長引く殿部痛、座るとつらいお尻の痛み、スポーツ中の太ももの裏の痛みがある方は、早めに専門的な評価を受けることをおすすめします。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、エコーを活用した最新の整形外科診療により、殿部痛の原因を丁寧に評価し、患者さんに合った治療を提案します。殿部痛でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。





