首から肩、腕、手にかけて痛みやしびれが広がる症状に悩んでいる方は少なくありません。整形外科では、このような症状の原因として「頚椎症性神経根症」がよくみられます。頚椎の椎間板ヘルニアや骨のとげ(骨棘)などによって神経が圧迫されると、首の痛みだけでなく、肩から腕に放散する痛み、しびれ、感覚低下、筋力低下などが起こります。今回ご紹介する論文では、急性期の頚椎症性神経根症に対して、内服治療だけでは残る痛みに対し、超音波ガイド下で行う低用量の斜角筋間腕神経叢ブロックが有効かどうかを検討しています。

 

 

この論文のタイトルは「Feasibility of Early and Repeated Low-dose Interscalene Brachial Plexus Block for Residual Pain in Acute Cervical Radiculopathy Treated with NSAIDS」で、2014年に Korean Journal of Pain に掲載されました。内容としては、発症から2週間以内の急性頚椎症性神経根症の患者さんに対し、NSAIDs(本研究ではロキソプロフェン)を使いながら、なお残る痛みに対して、週1回の低用量・超音波ガイド下斜角筋間腕神経叢ブロックを外来で反復して行う方法の実行可能性と有効性、安全性を検討した前向き研究です。

 

頚椎症性神経根症では、痛みの原因は単なる圧迫だけではありません。炎症性物質、神経周囲の浮腫、血流変化なども関与し、痛みが強く長引くことがあります。保存療法で自然に軽快する例も多い一方で、強い痛みが続くことで生活の質が大きく落ち、睡眠障害や仕事への支障、慢性痛への移行につながることもあります。そのため、「すぐ手術ではないけれど、内服だけではつらい」という患者さんの痛みをどう和らげるかは、とても重要な課題です。

 

この研究では、発症2週間以内の患者さんを対象とし、まず全員にロキソプロフェンを投与しています。そのうえで、超音波ガイド下ブロックを希望した人が介入群、内服のみを継続した人が対照群になりました。痛みの評価にはVAS(Visual Analogue Scale)が使われ、0から100で痛みの強さを評価しています。さらに、介入群では初診時の痛みが70未満の「軽度〜中等度疼痛群」と、70以上の「高度疼痛群」に分けて解析しています。

 

ブロックに使用された薬剤は、デキサメタゾン1.65mgと1%メピバカイン3.0mL、合計3.5mLという非常に少ない量です。一般的に神経ブロックというと、強くしっかり麻痺させるイメージを持たれるかもしれませんが、この研究の特徴は、必要最小限の量で、超音波で位置を確認しながら、狙った部位に安全に投与することにあります。エコーで神経を可視化することで可能となる最新の武器といえますね。

 

実際の結果は非常に興味深いものでした。介入群では、平均VASが開始時63.3から4週後には20.0まで大きく低下しました。しかも、痛みの軽減は1週目からすでに認められ、2週目にはさらに改善しています。つまり、超音波ガイド下の低用量ブロックを加えることで、急性期のつらい痛みを比較的早期から和らげられる可能性が示されました。

 

さらに注目すべきなのは、内服のみの対照群と比較したとき、軽度〜中等度疼痛群でも高度疼痛群でも、介入群のほうがVASの低下が有意に大きかった点です。内服だけでは取り切れない痛みに対して、超音波ガイド下ブロックを追加する意義があることを、この研究は示しています。特に急性期で痛みが強い患者さんにとって、「我慢して様子を見る」だけでなく、痛みを早くコントロールする選択肢があることは大きな意味があります。

 

痛みの程度別にみると、軽度〜中等度疼痛群ではより早い改善がみられました。VASが20以下、つまりかなり痛みが軽くなった患者さんの割合は、2週時点で15.5%、3週で51.2%、4週で56.0%でしたが、これを群別にみると軽度〜中等度疼痛群のほうが明らかに早く改善していました。4週時点でVAS20以下に達した割合は、軽度〜中等度疼痛群では85.1%だったのに対し、高度疼痛群では18.9%でした。この結果からは、発症早期で痛みがまだ極端に強くなりきる前の段階で、適切な介入を行うことの重要性が読み取れます。

 

一方で、高度疼痛群では改善が遅い傾向がありました。著者らも、強い痛みの患者さんでは、透視下神経根ブロックや弱オピオイドなど、より積極的な治療を早めに考慮すべき可能性に言及しています。これは実臨床でも非常に重要です。つまり、頚椎症性神経根症と一口にいっても、すべて同じように経過するわけではなく、症状の強さ、神経所見、画像所見、生活への支障の程度を総合的に評価して、その人に合った治療戦略を立てる必要があるということです。

 

患者満足度も高かった点は見逃せません。4週時点で、介入群の多くの患者さんが高い満足度を示しました。痛みの数値だけではなく、「患者さん自身が治療に満足しているか」はとても大切です。なぜなら、首から腕にかけての放散痛やしびれは、日常生活のあらゆる動作に影響し、精神的な負担も大きいからです。痛みを早く、的確に和らげることは、症状の改善だけでなく、不安の軽減にもつながります。

 

安全性についても、この論文は重要な示唆を与えています。介入群では合計316回のブロックが行われましたが、観察されたのは一過性の部分的な運動麻痺84回で、持続時間は平均84.7分でした。しかも、Horner症候群、反回神経麻痺、呼吸苦、循環動態の変化、ブロックに伴う神経障害などの重篤な有害事象は報告されていません。もちろん、どんな注射にもリスクはありますし、この結果だけで完全に安全と断定はできません。しかし、超音波で神経や周囲組織を見ながら、少量で丁寧に行うことが安全性向上に寄与する可能性は十分に考えられます。

 

ここで非常に大切なのが「超音波ガイド下」であることです。頚部は血管や神経など重要な構造が密集している部位であり、手探りやランドマークだけで処置を行うより、超音波で実際の解剖をリアルタイムに確認しながら注射する方が、精度と安全性の両面で有利です。論文でも、超音波ガイドによって低用量でも十分な効果が得られ、不要な合併症を減らせる可能性が強調されています。

 

この考え方は、日常の整形外科診療にも非常に通じます。首の痛み、肩から腕への放散痛、しびれを訴える患者さんの中には、「レントゲンでは年齢相応と言われた」「薬だけ出されたが、なかなか良くならない」「本当に首が原因なのかよく分からない」と感じている方が少なくありません。そうしたときに重要なのは、ただ薬を増やすことではなく、今どの神経がどの程度関与しているのか、痛みの原因がどこにあるのかを丁寧に診ることです。

 

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、運動器エコーを活用しながら、患者さん一人ひとりの症状を丁寧に評価し、診断と治療方針を組み立てることを大切にしています。頚椎症性神経根症の診療では、問診や身体所見、必要な画像検査を組み合わせて、首由来の症状なのか、肩や肘、末梢神経、筋膜性疼痛など他の原因が関与していないかを見極めることが重要です。痛みやしびれは「首のせい」と決めつけず、正確に評価して初めて適切な治療につながります。

 

また、首から腕への痛みであっても、患者さんによって必要な治療は異なります。内服や生活指導、リハビリが有効な方もいれば、より局所を狙った注射治療が役立つ方もいます。強い神経症状や進行する筋力低下がある場合には、さらに専門的な治療や高次医療機関との連携が必要になることもあります。大切なのは、症状の強さと経過に応じて、適切なタイミングで適切な選択をすることです。

 

この論文は麻酔科領域の研究ですが、整形外科外来にとっても非常に示唆に富んでいます。なぜなら、頚椎症性神経根症の患者さんが本当に困っているのは、「診断名」そのものよりも、今この瞬間の強い痛みとしびれだからです。しかもその痛みが長引くと、仕事、家事、睡眠、気分にまで影響が及びます。急性期の強い痛みを放置せず、早期から適切にコントロールすることが、その後の回復を助ける可能性があります。

 

もちろん、この研究にも限界はあります。無作為化比較試験ではなく、介入希望の有無で群分けされている点、自然経過による改善の影響を完全には除外できない点などです。著者ら自身も、慢性期の頚椎症性神経根症に対する有効性については今後の検討が必要としています。したがって、この論文だけで「すべての患者さんにこのブロックが最善」と言うことはできません。ですが、発症早期の頚椎症性神経根症で、NSAIDsだけでは残る痛みに対し、超音波ガイド下の低用量ブロックが有力な選択肢になりうることは十分に示されたといえます。

 

首から肩、腕、手にかけての痛みやしびれでお困りの方は、「そのうち治るだろう」と我慢しすぎないことが大切です。特に、夜間痛が強い、腕に響く痛みが続く、しびれが強い、日常生活に支障がある場合には、早めの評価が望まれます。正確な診断と、症状に応じた治療の組み立てが、回復への近道になります。

 

はせがわ整形外科運動器エコークリニックでは、エコーを活かした丁寧な診療を通じて、痛みの原因をできる限り明確にし、患者さんにとって納得できる治療を提案することを目指しています。首の痛み、肩から腕への放散痛、しびれでお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。「どこが悪いのか分からない」「薬だけで良くならない」という方こそ、しっかり評価を受ける価値があります。