最新の解剖学・疫学研究から読み解く発症メカニズム
ばね指(trigger finger)は、指の屈筋腱がプーリー部分で引っかかり、痛みや弾発現象を起こす疾患です。臨床現場では中指に最も多く発症することがよく知られていますが、その理由は単純ではありません。
近年の解剖学研究・疫学研究・手根管症候群(CTS)との関連研究から、中指がばね指になりやすい複合的な要因が明らかになってきました。本記事では、最新のエビデンスをもとにその理由をわかりやすく解説します。スマホなど日常生活の影響も解説されているので必見です。

J Anat. 2024 Feb 28;245(1):12–26. doi: 10.1111/joa.14031
解剖学的構造:中指だけに見られる「完全パターン」
2024年の詳細な解剖学研究では、48手・192指を分析した結果、以下の特徴が明らかになりました。
中指のプーリー構造の特徴
最も多いプーリーパターンは A1‐A2‐C1‐A3‐A4‐C3‐A5
全てのプーリーが揃う「完全パターン」は全体の1.56%(3本)
その3本はすべて中指
A2プーリーの長さは全指で最長(19.07mm)
A3・A5プーリーも高頻度で存在
これらの特徴は、屈筋腱が滑走する距離が長く、摩擦が増えやすい構造であることを示唆しています。摩擦が増えるほど炎症が起こりやすく、ばね指の発症リスクが高まります。
手根管症候群(CTS)との関連:術後ばね指も中指が多い
CTSとばね指は併発しやすいことが知られています。特に、CTS手術(CTR)後の新規ばね指発症部位として中指が最も多い、または環指に次いで多いという報告があります。
主な研究結果
CTR後のばね指発症部位
中指:33%
環指:31%
母指:23%
非手術のCTS患者でも中指の発症率は高い
CTSでは正中神経支配の指(母指・示指・中指)に負荷がかかりやすく、炎症が波及することで中指の発症リスクが上昇すると考えられています。
疫学的要因:中指は「最も使われる指」
大規模保険データ(31,830人・42,537指)を用いた研究では、ばね指の発症は中指と環指が最多であることが示されています。
中指は手の中心に位置し、以下のような動作で最も負荷がかかります。
物を握る
タイピング
工具の操作
スマホの操作
屈筋腱の駆動回数が多く、力が集中しやすいことから、慢性的な摩擦・炎症が蓄積しやすい指と言えます。
研究からわかる「中指がばね指になりやすい理由」の総括
複数の研究を統合すると、中指の高い罹患率は以下の要因が重なった結果と考えられます。
解剖学的にプーリー構造が複雑で負荷が大きい
CTSとの関連で炎症が起こりやすい
日常生活で最も使用頻度が高い指である
現時点では「中指が必ずばね指になる」という因果関係が証明されたわけではありません。しかし、解剖学・生体力学・臨床データのいずれも中指の高リスク性を支持しています。
臨床的な示唆:中指の症状は早期対応が重要
中指は負荷が大きいため、症状が進行しやすい傾向があります。以下の症状があれば早めの受診が推奨されます。
朝の指のこわばり
曲げ伸ばしの引っかかり
指の付け根の痛み
カクッと弾けるような動き
早期であれば保存療法で改善するケースが多く、進行例では注射や手術が必要になることもあります。
まとめ
ばね指が中指に多い理由は、単一の要因ではなく、解剖学的構造・使用頻度・CTSとの関連といった複数の要素が重なり合うことで説明されます。最新の研究は、中指が特に負荷のかかりやすい構造を持つことを示しており、臨床現場での観察とも一致しています。
中指の症状は進行しやすいため、早期の対応が重要です。気になる症状があれば、早めに手外科専門医の治療を受けられる当院へお越しください。
当院での「切らない」ばね指治療は こちら を参照ください。
当院でのばね指手術の説明動画は こちら をご覧ください。
参考文献
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