手関節の痛みや可動域制限の原因として、舟状骨・大菱形骨・小菱形骨から構成されるSTT関節の変形性関節症(STT OA)は決して珍しいものではありません。特に50〜70代の女性に多く、日常生活に大きな影響を与えることがあります。

今回紹介する研究は、STT関節症の発症に「月状骨の形態」が関係しているのではないか、という興味深い仮説を検証したものです。かなりマニアックな手関節分野の研究を紹介します。
月状骨には2つのタイプがある
Viegasらの分類によると、月状骨には以下の2タイプがあります。
Type I:遠位に1つの関節面のみ(橈側のみに存在)
Type II:遠位に2つの関節面(橈側は有頭骨、尺側は有鈎骨と接する)
この違いは、手根骨の動きや荷重分布に影響を与えることが知られています。

上がType1、下がType2
研究の目的
本研究の目的は、
「月状骨の形態(Type I / Type II)が、STT関節症の発症と関連しているか」
を明らかにすることでした。
研究方法
対象:2000〜2007年にSTT関節症と診断された48名
対照群:同期間に外来受診した50歳以上の96名(STT OAなし)
使用画像:手関節のPA・側面X線
月状骨タイプの判定:有頭骨と三角骨の最短距離(C-T距離)を測定
2mm以下 → Type I
4mm以上 → Type II
中間値は誤分類を避けるため除外
また、SL解離やDISI変形など、STT OAに影響しうる他の手根不安定性を除外することで、純粋に月状骨形態との関連を検討しています。
結果
STT OA群:
Type I:8例
Type II:40例
対照群:
Type I:35例
Type II:61例
統計解析の結果、
Type II月状骨はSTT関節症と有意に関連している(P=0.02)
ことが示されました。
なぜType IIがSTT関節症と関連するのか
過去の研究では、月状骨の形態によって手根骨の動きが異なることが示されています。
Type I
手根骨列間の回旋・平行移動が大きい
可動性が高い
Type II
有鈎骨との追加の関節面により、動きが制限されやすい
主に屈曲伸展方向の動きが強調される
靭帯構造もより強固で、動きが硬い
このような特徴から、Type IIではSTT関節にかかる負荷が特定方向に集中しやすく、長期的に関節軟骨の摩耗が進みやすいと考えられます。
研究の意義
この研究は、STT関節症の発症に「手根骨の形態的特徴」が関与している可能性を示した点で重要です。
STT OAのリスク評価に役立つ
手術計画(特にSTT関節固定術や舟状骨遠位極切除)において、術後不安定性の予測に応用できる
手根骨の形態と運動学の関係を理解することで、より適切な治療選択が可能になる
まとめ
本研究は、STT関節症と月状骨Type II形態の間に明確な関連があることを示しました。 手関節の構造は複雑で、わずかな形態の違いが関節の動きや負荷分布に大きく影響します。
STT関節症はまだまだ分かっていないことも多い領域です。この研究結果から単純に月状骨の形態によってSTT関節症が生じるという単純なものではなく、「STT関節症が生じる原因のひとつに月状骨の形態が関係する」というものです。おそらく手根不安定症や舟状骨周囲の種々の靱帯が病態に関連するものと思われますが、これらを裏付ける研究結果が今後でてくるものと思われます。
はせがわ整形外科運動器エコークリニックは常に最先端の知識・技術をもとに「平野区の手外科」として手外科の専門的治療を提供します。
STT関節症に興味が湧いた方はこちらの記事でもバイオメカニクス研究に関する論文解説をしています。





