
ばね指(弾発指)は、指の屈伸時に引っかかりや痛みを伴う疾患で、糖尿病患者に高頻度でみられる手の合併症の一つです。近年の文献レビューでは、糖尿病がばね指の発症リスクを高めることが明らかになっており、その発症機序や治療経過にも特徴があるとされています。
ばね指と糖尿病の疫学的関連
糖尿病患者は、非糖尿病患者と比較してばね指を発症するリスクが2〜3倍高いと報告されています。ある大規模なコホート研究では、糖尿病患者の約10%が生涯のうちにばね指を経験するとされており、その頻度の高さが注目されています。
発症メカニズム
糖尿病では、慢性的な高血糖状態が続くことにより、指の屈筋腱や腱鞘においてコラーゲンの糖化が進行します。この糖化は、腱や腱鞘の柔軟性を低下させ、肥厚や変性を引き起こします。その結果、腱の滑走が妨げられ、ばね指が発症します。
さらに、糖尿病に伴う微小血管障害や慢性炎症も、ばね指の発症に関与していると考えられています。当院では、こうした微小血管障害に対して東洋医学的な視点から漢方薬を処方することも可能です。
臨床的特徴と合併症
糖尿病患者におけるばね指は、以下のような特徴があります。
複数の指に同時に発症しやすい
再発率が高い
保存的治療に対する反応が乏しい傾向がある
また、ばね指は「糖尿病手症候群」の一部として、他の手の障害と併発することも少なくありません。具体的には、関節の可動域制限、デュピュイトラン拘縮、手根管症候群などが挙げられます。さらに、糖尿病の他の合併症(腎症や網膜症など)を有する患者では、これらの手の障害のリスクがさらに高まる傾向があります。
治療と予後
糖尿病患者におけるばね指の治療では、ステロイド注射や装具などの保存的治療が効果を示しにくいケースが多く、外科的治療(腱鞘切開など)が必要となることが少なくありません。
アメリカで行われた費用対効果の研究では、糖尿病患者においては注射を行わずに早期に手術を選択した方が、医療経済的に合理的であるという結果も報告されています。
手術後も手指の腫れが長引くケースがあるため、術後のケアも重要です。当院では、単に最新の手術を提供するだけでなく、手外科専門医が患者一人ひとりに合わせた総合的な治療を行っています。
このように、糖尿病とばね指には密接な関係があり、早期の診断と適切な治療が重要です。ばね指は普段から使う手指の痛みを伴うため生活への影響が大きいですが、実は奥が深い疾患です。手外科専門医による最新治療を受けたい方はぜひ当院へお越しください。
参考文献
- Incidence, Prevalence, and Outcomes of Hand Manifestations in Patients With Diabetes Mellitus: A Comprehensive Literature Review. (2024)
- Management of limited joint mobility in diabetic patients (2013)
- Diabetic hand: prevalence and incidence of diabetic hand problems using data from 1.1 million inhabitants in southern Sweden (2021)
- Prevalence of Hand Disorders in Type 2 Diabetes Mellitus and its Correlation with Microvascular Complications (2013)
- Trigger finger is associated with risk of incident cardiovascular disease in individuals with type 2 diabetes: a retrospective cohort study (2021)

